非言語的常識

 高校生の女の子が、期末試験で英語のリスニングの点が悪かった、と言
う。
「授業の時より難しいのが出される気がする」
 リスニングで点数が取れない、とは常々彼女が言っている。
 じゃあ、筆記試験で点数を稼げば、と言いたくなるが、友人の息子が不
登校になった時、
「どうせずっと家でゲームをしてるんだったら、掃除とか後片付けぐらい
してくれたらいいけど」
 と友が言うのを聞いて、それは違うだろうな、と思った。
 これの不足はあれで補填するのが当然、という発想は合理的なようで当
事者にとって的外れだということだ。
 私は女の子に、
「リスニングのテストってどんな感じ」
 と聞いてみた。
 音声が流されるのは、質問用紙を開けた二分後。
 なるほど。その二分間に質問に目を通して、何を聞き取るべきか、事前
に心の準備をさせてくれるのね。
「えっ」
 驚く彼女の理由がわからない。
 彼女はいつも、その二分間を筆記試験の続きに当てていたという。
 質問内容もわからないまま、いきなり英語を聞くのか。それはニホン語
のリスニングテストでも無理だろう。
 質問は、音声の初めに注意事項が述べられている時に見る。
 じゃあ、上の空ってことよね。万一解答のルールが変わっていたら、全
滅よね。
 なんにせよ、最初に与えられる二分間の意味を理解していないのがまず
い。まずすぎる。中高一貫の私立校で、彼女はずっとそうやってきたのだ
と思うと、唖然とさせられる。
 なんで誰かに聞いてみようと思わなかったのか。
 疑問に思ったことがなければ、聞かないか。
 その日、私は欄外にフリクションのボールペンで書いた一文を消すこと
にしたが、ボールペンを出すのが面倒で、急ぎでなければ今度消すつもり
でそう言ったら、
「わかりました」
 と大学生が消しゴムを持ち出す。
 え・・・。
 消えた。
 知らなんだあ。
 夏に孫が生まれるという人と歩いている最中、この先にパンの耳まで柔
らかい食パンの専門店があるが、一斤買い、結婚前だったので娘の将来の
お婿さんとなる人に半分あげようとしたら、ナイフでちゃんと切れないし、
値段に見合う美味しさかなあと思った、と話すのを聞いて、味のことはわ
からないが、そのパンはテレビで見ていたので、その特徴から、私は言っ
た。
「手で千切るんじゃないですか」
「えー。ああ、そうなんだ・・・」
 言わなくてもわかっている、と思っていたら、わかっていない人がいる。
 お喋りは大事だ。