現金回帰

 つけたテレビ番組が面白くないとほかに回すが、この時、面白くないと
判断した理由を言語化して分析することはない。
 だが、今流れているコマーシャルの中に、それが始まるとほかのチャン
ネルに回してしまうものがあり、一分以内の短さでも我慢できない拒否の
理由を考えさせられることになった。
 このコマーシャル。現金をやめてカードを使いましょう、と言いたいら
しい。
 はい、君のお札を僕が持ったら、このお札、一体誰のお金になるんだろ
うね。お金って不確実だね。そんなものにとらわれているんだね、僕達。
お金ってなんなんだろう・・・というようなことが台詞として語られるの
だが、もう突っ込みどころが満載。
 久しぶりに思い出した。
 叔父が茶目っ気のある人で、一緒に食べている時、たとえば唐揚げを一
つ、隣に座った私や、自分の子供達の皿に、ひょいっと載せる。
 私達は喋っていて気がつかなくて、さあ、食べようと皿を見たら、
「あれ、まだ食べてなかったっけ・・・」
 と首を捻りつつ、二つ目を食べることになる。
 まあ、こういうことがしょっちゅうだと、叔父の仕業だとわかってしま
うのだったが、コマーシャルでいうところの現金と同じことが起こったわ
けだ。
 この唐揚げ、僕のかなあ。君の皿に載ったら君の物になるのかな。
 たった一つ反証が見つかっただけで、現金を特別視する根拠は崩れるの
である。
 で、お金とは何かと聞くんですか。
 それを銀行関係者に教えなくてはいけないんですかね。
 確か、物々交換の面倒や不都合を回避するために石やら貝やらを経て紙
幣、硬貨に辿り着いたのではないですか。
 海外を旅行する時、カードは便利だ。
 しかし、国内だとそうとは言い切れないし、歳を取ったらカードは不便
になると私は予感している。
 カードを管理し、暗証番号を記憶し、なおかつ、そのカードで使えるだ
けの金額を把握しておくにはかなり高度な能力が必要で、それができなく
なったら、原始的な現金が一番になるはず。
 詐欺対策と言われるかもしれないが、そういう年齢に達したら、現金で
もカードでも、詐欺に遭う時は遭うであろう。
 だが、カードだけの世界になったら。
 カードの管理が厳しく本人のみに徹底されるならば、子は、親の死後、
親の預金を引き出せなくなり、遺産は課税率百パーセントということにな
り、富の継承がなくなる。子の世代は親を当てにしないという真の平等が
世に行き渡る。それは良き未来かも。