書かなきゃ、忘れる

 きのう、夕食の時に歯が欠けた。
 歯医者に電話したら、土曜の今日は予約が取れないが十時に来れば空い
た時刻に診察すると言われ、長い待ち時間を覚悟したが、十分後には名前
を呼ばれて、ラッキー。
 その時まで、意識がそこに向かうせいか、舌がその歯先に触れて自ら傷
つきに行くのを止められなかったが、処置してもらった途端、歯にトラブ
ルがあったことなどなかったみたいな気分になってくる。
 少し前に、右目が変な感じで眼医者に行き、瞼の裏が少し赤い以上の症
状は見当たらないが、オドメール点眼液を出してもらった時も、その目薬
を一回差したら、即、回復。念のための二回目で完治し、すると、眼医者
に行く必要はあったのか、なんて思いそうになった。
 不遜な私。
 我ながら呆れる。
 あ、そう言えば、連休前には、左足の膝の裏が突っ張る感じに悩まされ
たんだったなあ。足の裏は、板になった感覚。
 膝裏の違和感を抱えたまま、夏用の靴を探しにゆき、店員から声をかけ
られたので、足に良いのが一番、デザインはその次、と言ったら、最終的
にシューフィッターのコーナーにいざなわれ、買わなくてもいいなら、と
承諾を得て、足を測定してもらったら、左は、親指以外が浮き指だと判明
した。その部分は影も形もないのだ。
 そして、横のアーチが崩れた開張足だと指摘される。
 私は、かかとが日本人離れして細いことは知っていて、アメリカのブラ
ンドのスポーツシューズを履いている。普段の靴はヒールがない物を敢え
て選んでいた。
 だが、私の足には五センチほどヒールがある靴が良いそうな。
 とりあえず、勧められた靴を試し履きした。
 シューフィッターの店の靴はダサいし値段が高い、とこれまで近づかな
かったのに、心は購入へと動くも、私の足は健康体と信じきっていたもの
だから、心の中で泣いていて、泣きながら高額な買い物をする、という不
思議な体験をすることになった。
 そして、その翌日にはなぜか膝の裏の痛みは消え、するとやっぱり、喉
元過ぎればで、すぐに足に不調があったことを忘却し、だから、歯と目に
続いて何かないかなと探って、あ、そう言えば、と思い出すのでなかった
ら、完全に私の記憶から消えていた。
 京都の豊国廟の五百六十五段の石段を無事上り下りできるかと不安だっ
たのは、そんな不安などなかったみたいに、その新しい靴で行けた。
 こんなことを書いているうちに、ようやく疲れが抜け始めた。