ガイドブックに勝るのは

 旅行に行く時は、まずインターネットで情報を集める。
 山道を歩くなら、Youtubeの投稿動画でどんな感じかを確認。
 普通はそれで間に合うが、今回は、熊野古道関連のガイドブックや旅の
雑誌を図書館から何冊も借りて紙の情報入手も抜かりないのに、全体像を
掴めた気になれない。
 バス停の場所を地図上で正確に把握しようとすると膨大に時間がかかる。
 だいたいのところがわかっていれば、あとは現地で、という楽観的思考
は危ない、と囁くは我が小心なる脳。
 図書館から借りた本の中に、国土地理院の地図上に熊野古道歩きの情報
をかぶせた本があったので、それを本屋で注文した。他にもめぼしい本と
地図を三冊購入。どれほど未知なる国なのか、と苦笑してしまう。
 情報をもとに旅の行程を考え、初日から時系列で書き出す。インターネ
ット上からスクリーンショットして貼り付けた方が早ければ、そうする。
どこで乗り、どこで降りるかの列車やバスの時刻表も、宿の情報も載せ、
現地ではその印刷したのがあれば十分、という状況にしておくのだが、今
回は最終版までに十回作り直した。
 というのも、本数の少ないバスに乗り遅れぬよう、だがバスを待って無
駄に時間を持て余さぬよう、と考えると、どの古道をどのぐらい歩くのが
いいか、ほぼ決めていたのを断念すること二回に及んだし、熊野川の川下
りは、旅の一週間前にそろそろ予約しておこうとホームページに入ったら、
川の状況のせいで八月いっぱい欠航、という案内に変わっている。
 まあ、そういう時のための第二案を第一案と入れ替えればいいだけなの
だが。
 現地に行って、わかったことがある。
 すべての観光案内所には立ち寄れなかったが、案内所にはその町の全体
像が一目でわかる地図など、そこでしか入手できない情報がたくさんある
んだなあ。
 なぜか外国語版の方が種類が多いけど。
 それでも、熊野古道の登り口付近から登り口までの詳細な行き方が載っ
た地図はなく、方向音痴の私はそこまで辿り着けるのか、その近くまで来
て、はたと立ち尽くす。
 と、話しかけてきたのは土地の人で、立ち止まってしばし雑談に花を咲
かせ、「時に」と私が登り口への行き方を問うと、そこをこう行ってこう
曲がって、と教えてくれるが、私がおぼつかなさそうな表情だったのか、
自分の家もそちらの方向だから、と登り口まで連れて行ってくれた。
 必要な時に忽然と現われ、助けてくれる見知らぬ人。
 旅の至福だ。