家かき氷

 蝉が鳴く。数は減ったが。
 カーテンを開けていると、部屋に差し込む日差しはきつい。でも、風の
中の湿度は減った。
 ヨーロッパの真夏のような日々が始まる。ニホンの残暑。
 でも、ここに至るまでの蒸し暑さは耐えがたい。
 どうすれば涼を感じられるか。
 タオルに水を吸わせ、絞って振ってから首に巻くと気化熱の原理で首が
涼しくなるという特殊なタオルも買ったが、もっと涼を感じるには。
 胃に冷たい物が入ると、大気が涼しくなった気がしてくる。
 かき氷だとそうなる。
 カップ入りのシャーベットは、ぎっしり詰まって固くて、なんか別物。
 やっぱり、家でかき氷だ。
 売っている店がないので、インターネットで調べた。
 電動式は手動よりラクという解説に、ふむふむ。
 機能は最低限でいいので取り扱いが簡単そうなのを探し、その品番の取
扱説明書を最終確認のために読むと、三十秒連続で動かしたら少し休ませ、
それを四回繰り返したら小一時間は使えない、というようなことが書かれ
ている。
 守れるのか私。
 だいたい、電動式で甘やかさねばならぬほど私の手や腕は衰えているの
か。手動式は仕組みが単純なので、取り扱いも、洗うのも簡単。なにより
最低価格帯。
 家電量販店に見に行くことにして、その前にスーパーマーケットに買い
物に行き、歩き回っていたら、かき氷機を集めたコーナーがある。
 お盆前。
 そんな時期になって初めてコーナーが作られたはずはない。
 私は何度もその前を通っている。
 なぜ。
 愕然とするしかないが、目に入ったのが一週間後ではなく今だったので
ラッキー、と脳天気に考えることにして、手動式のペンギン型のを買った。
 以来、朝起きたら、まずは朝食代わりにかき氷。
 氷を入れてもうまく氷がかけないと、我が脳が挑戦を受けているようで、
素朴なゲーム感覚で解決に乗り出す。
 シロップは果糖ブドウ糖液糖がほとんどを占めるから控えめにして、豆
乳あるいは牛乳をかける。
 そう言えば、小さい頃も家でかき氷を食べていたなあ。
 今回、千円ほどだったかき氷機。
 雑に使って壊れても元は十分取れると思っているが、杞憂に終わりそう
なのは、さすが日本製。
 夏の初めに四十度を超えたパリほどではないが熱波に参っていたフラン
スの地方に住む友人に、私はこれで乗り切っていると写真付きでかき氷を
紹介した。
 今度行く時、手動式のを土産に持って行ったら、珍しがられ、面白がら
れ、喜んでもらえるかも。