敏腕セールスの秘密

 生命保険の外交員のイメージは、身近な人に義理で入ってもらったら、
そこで営業成績がストップして退職、というもの。
 だが、そういうあまたの脱落者の中から抜きんでて、高額所得者とな
る人もいる。
 その差は、どこにあるのだろう。
 私は、保険は、私の就職を待ちかねたように、母親の知り合いからも
たらされた定期保険に入ったのが最初で、ところが、これが、外交員に
は一番高得点の営業成績となるものの、一家の大黒柱でもなければ、い
ずれそうなるかどうかもわからぬ私にはまったく不向きな内容で、そう
とわかった時は彼女はすでに退職。私は、今度はしっかり知識を獲得し
てから、会社に出入りの外交員に何度もプランを出し直してもらって、
乗り換えた。
 これで、一生、外交員とは無縁。のはずが、新しい保険に漏れなく付
くことになった『指定代理請求特約』に無料で入れるけれど、どうです
か、と電話がかかってきた。
 死亡時以外は、契約者本人が怪我の給付金などを請求するのが基本だ
が、それができない状態の時に、代理人が申請してもスムーズに処理さ
れることになるのだとか。
 承諾したら、外交員が二人で来た。
 新人なのだろう、最初に私に電話をかけてきて説明を始めたら、私か
ら質問し返され、慌てて上司に電話を委ねてしまった女性と、そのフォ
ローを引き受けると、明解なる説明で私を安心させてくれた女性。
 対面してからも、話をするのは、名刺に〃所長〃とある、その女性だ。
 そして、こういう時に用件だけで済ませないという営業の鉄則通り、
乗り換えプランを紹介される。
 私は、それよりも、今の保険は、葬式代だけ出ればいいと考えて保険
金を決めたのだったが、葬式代だけならもっと安くていい気がするし、
この先、保険金殺人される予定もないとすれば、減額したらどうなるか
が知りたい。
 すると、そのプランを持って、改めて彼女達が訪れた。
 最後は、しばし雑談タイム。
 部下を引き連れた女性外交員と初めて出会ったこのチャンスに、長年
の疑問を解明できたらと、私がそう仕向けたのだ。
 ただ、この所長を目にすると、美貌も重要な条件なのかも、と思いそ
うになる。
 モデルに転職しても稼げそうに、美しい人。
 もっとも、ほかの顔を体験したことがなければ、得していても、そう
実感できないのも、また事実かも。
 私の褒め言葉はお世辞と軽く聞き流すと、所長は、
「心ひとつですね」
 と答えたのだった。