おもしろ消しゴム

 連休中の子供向け企画なのだろう。大手スーパーの文具売り場に「鉛
筆」と「消しゴム」の詰め放題コーナーが出現した。
 けど、午後の中途半端な時間のせいか、人っ子一人いない。
 書く行為の大半をパソコンに代用してもらって久しい私には、鉛筆も
消しゴムも無用の長物。
 さっと見て立ち去ろうとして、平積みの四角い消しゴム群の隅に置か
れた、駄菓子屋にあるような壺を覗き込んだら、消しゴムで作られたパ
ンや飛行機や蛙がひしめき合っている。
 百均で買った時は、ひと袋に三つ入っていた。嵩張らないし軽いので、
英語の個人レッスンの教材にしたのだ。
 三百円の詰め放題なら、十個詰められたら、こっちの方が得という計
算になる。
 私なら、幾つ詰め込めるかなあ。
 消しゴム教材は、想像以上に子供達に好評を博したものの、目を輝か
せて消しゴムの解体に取り組まれるとは想定外で、お蔵入りにした教材
なのだが。
 そこにあるのは、私が持っていないものばかり。
 なんとなく袋を手にした。
 と、なぜか大人や子供が集まってきて、小学生の男の子は、四角い消
しゴムを求めて、私の隣に。袋の底に四つ目を詰めようとして、「入ら
へん・・・」。
 私に向かって訴えられたら、私が試すことになる。彼のほしいキャラ
クターの消しゴムは大きすぎて、底に四つは不可能とわかった。
「じゃあ、これでいいや」。
 彼は四つ目を小さい消しゴムで譲歩したが、続く上の空間でも四つ目
で苦戦。これは、消しゴムと消しゴムのあいだに四つ目を入れるスペー
スを作ればいいというのが見て取れたので、私が手を出し、やって見せ
る。
 思わぬ所で役立つ年の功、だなあ。
 私自身はというと、買う意志が曖昧なまま詰め始めたが、万一買った
場合は英語の教材にするわけで、教えたい単語を考えて取捨選択するし、
選んだら、選んだすべてを詰め込みたい意欲が湧いてきて、消しゴムの
柔軟性に希望を託し、ゆっくりゆっくり押し込んで、計十六個。
 そのあとどうする、という気持ちは不明でも、目指す目標さえ明確な
ら、脳はそれを実現すべく働いてくれる、と身を以て証明したような結
果になった。
 それで満足して、中身をワゴンに戻してもよかったのに、相変わらず、
是が非でも買いたい、買わねばならぬ、と熱き思いもないままレジへ。
 一度封印した消しゴム教材が、新たな十六個と共に復活することにな
った。
 あ、翌日、十五個入手したから、新たな三十一個、でした。