十六年目の冷蔵庫

 私は決断力がない。
 結局は決断することになるが、そこに至るまでに時間がかかる。
 和歌山県の農協のみかんの出張直売があった時、箱買いするつもりだが
LサイズかMか。
 母に自分で決めろと突き放されて迷いの底なし沼に沈み、焦れた母にL
にしたらと言われてそうしたが、この手の優柔不断は数知れず。
 あとであっちにしておけばよかったと思いたくないのだ。損をしたくな
いんだ。
 でも、今、過去の選択を悔やみたくなっても、その時点では、必死に考
えた末の最善だった。もし、そこまで舞い戻れるとしても、今の判断力を
持って行くことはできないから、何度戻っても、それを選ぶようになって
いる。そうとわかれば、後悔はあり得ない。
 今の自分は最善の積み重ねでできているのだ。
 と言うことは、後悔しそうになったら、やっぱりそれでよかったんだと
思える未来になるよう、今、行動すればいいんだ。
 こんな理屈で自分自身をけしかける私。
 だが、先日のことだ。
 数日間続けて外出が続くが、食料が切れかけている。朝、急いでまとめ
買いをしに行くことにした。
 窓は閉めたか、ガスや電気は大丈夫か。確かめるたびに「火の元・戸締
まりチェッカー」のスイッチをスライドさせて「〇」にする。高齢の親の
ために製品化したら若者にも好評、とテレビで紹介しているのを見て、買
ってからは、私の出かける前の強い味方。
 冷蔵庫の扉のボタンを押して省エネ運転にするのも、電気の確認の一つ
になる。
 だが、ボタンが緑色にならない。
 ドアを開けたら、中は真っ暗。
 どのぐらい前からだろうか。定期的に大きな音がして、本体がぶるぶる
震えるようになった。怯えるほどの音に不安になったが、なのに、気に留
めずにいた。愚かなのんきさのせいで、青ざめる私。
 理工系の男友達が、寿命前だが、冷蔵庫や洗濯機など電化製品を一式買
い換えた、と話していたことを思い出す。
 コンセントから電源プラグを抜き、挿しなおしてみた。パソコンは、そ
れで不具合が解決することがあるのだ。
 効果なし。
 食品調達どころか、冷蔵庫の中の食品がこのままでは全滅だ。
 冷蔵庫は、買っても、その日のうちに届かない。
 午後の外出までの短時間に買いに行くしかない。
 高価な買い物だけど。
 そうするしかない時、私は、突然、聡明になる。
 だが、まずはこの冷蔵庫のマニュアルを探し出し、パソコンを再度立ち
上げた。
 これも的確な判断だった。