縁起を担ぐ

 普通、良き日と言ったら、六曜の「大安」。
 明治時代に国が迷信だとしてどんな吉凶もカレンダーへの掲載を禁じた
が、民衆の反撥に遭い、一つだけ許したのが六曜で、結果的に、信じるに
足るのは六曜だと認識されるようになったらしい。
 そうとわかっていても、どの日でも選べるなら、慶事は大安に、となる
のは人の情。
 しかし今、大安を上回る良き日が喧伝されている。
 天が万物の罪を許してくれる「天赦日」。
 一粒の籾(もみ)が万倍にも実る「一粒万倍日」。
 今日は、おまけに六十日に一度巡ってくる「甲子の日」が重なる。
 物事をスタートするのに良き日が三つも同じ日に重なって、最強らしい。
 星占いの視点からだと、惑星がすべて順行して、今日はやっぱり物事が
順調に進む日になる。
 この日を待って、新しい財布をおろした。
 半月前に買ってから新札を入れて暗い所で寝かせていたのは、そうする
と金運が上がると聞いたから。
 それを言うなら、色は緑。
 金持ちの財布は緑か黒が多い。
 なりたい人の真似をしたらそうなれるというのが占いになるのか怪しい
ものだが、その情報に従い、初めての緑。黒は以前持っていた。
 ただ、私は緑は好きではない。
 藁をもつかむ気持ちになったのか、私。
 昨日までピンクの長財布を使っていた。小銭入れは別なのに、財布が重
たい。
 お札は万一用で限りなく少なく、カード、そしてチャックで開閉する場
所には、神社で小さな縁起物付きのおみくじがあると引いて手に入れた縁
起物の全部と、お守り。
 革そのものが重いのだろう。
 使ってまだ二年ほどなので買い換えたくなかったが、淡いピンクは汚れ
が付くと目立つ。
 今度は二つ折りにしようかなあ。
 買ったバッグが小さくて、長財布が入らないのだ。
 山登りのリュックのベルト部分に入れるために買った三つ折り財布があ
るが、お札が三つに折れる。
 でも、二つ折りだと、お札は二つに折れる。
 なんにせよ、色は緑。
 まんまと占いの術策にはまったなあ。
 気に入ったのが見つからず、インターネットで私のピンクの後継を見た
ら、緑と黒。微妙なデザイン違いの緑もある。
 そうか。重さ以外は大満足の、そのブランドのを買えと言うことなんだ
な。
 デパートに電話したら、デザイン違いの方が冬のセールで四十パーセン
ト引きになったと言われる。在庫は三つあるとか。
 まさに運命。
 でも、手に取って見比べたい。
 行けたのは三日後だった。