スピーカー通話

 たまに電話してくる叔母とは、話し始めたら一時間以上。
 叔母は炬燵の上に置いたスマホのスピーカー機能を使って話すので、口
が疲れるまでは平気みたい。
 私も平気。が、私はその間ずっと二つ折りの携帯電話を耳に当てている。
 いわゆるガラケーで、電話の受話器のように持ちやすいからではなく、
スピーカー機能は付いていないと思い込んでいたのだ。
 新しい携帯電話に換えてからも、そう。
 ところが先日、受信ボタンを押してから耳に当てるまでの数秒のあいだ
に「スピーカーON」という表示が目に入った。
 え、ガラケーも手放し通話できるの。
 一つ前の3G回線のガラケーにそういう表示は出なかった。
 いや、そっちの方が辞書機能などが充実して優秀だったから、本当にそ
うかとその機種の名誉のために調べてみたら、アプリというボタンを押す
仕組みだったと、今、マニュアルを読んで初めて知った。
 さて、スピーカーにして喋れるとわかった私はどうしたか。
 その後も数回、耳に当てて話した。
 相手の声はちゃんと聞こえる。でも、私の声が相手ちゃんと聞こえなか
ったら相手に失礼。
 でも、手ぶらで話せたら、話ながらパソコンを打つのが楽なので、試し
たら、叔母はいつもどおり話し続け、ようやくスピーカーで話しても私の
声ははっきり伝わるんだと納得した。
 固定電話もそうだ。
 スピーカー表示が目立っていたので、当初から利用していた。ただし、
電話番号を入力して呼び出し音が聞こえているあいだだけ。相手が応答し
たら受話器を耳に当てて話す。
 やっぱりマイクが私の声をどの程度拾ってくれるのかがわからなくて、
不安だったのだ。
 麗しき相手への配慮だなあ。
 だが、スピーカーにして話し、相手に聞こえ具合を確かめれば、すぐに
判断は付けられた。
 それをせず、なぜ、私は受話器に口を近づけて話さないと駄目だと思い
込んだのか。
 今となっては謎。
 思い込んでしまった、ということだけはわかる。
 私はそんなに思い込みの強い人間だったのか。
 パソコン上でこういうことがしたいと思った時、インターネット上でこ
ういう情報を探したいと思った時、私は自力でほしい答えに辿り着く。こ
れが駄目ならあれ、という柔軟な発想があるおかげだと密かに自負してい
たが、その能力とは関係なかったのか。
 こうにちがいないと思ってしまったら、そこで思考が止まるのだから。
 この手の思い込みを次々発見している今日この頃だ。