会食クラスターは、なくならない

 行きつけの美容室が、去年の春、自粛要請で二ヶ月間休業したあと、そ
のまま廃業になり、私はヘアサロン難民になった。
 天然のウェーブは美容師のカットの腕を選ぶ。
 もっとも、髪が広がらないよう重力に期待して髪を伸ばしていたので、
カットの技術にそこまで厳しくこだわらなくてもいいかもしれない。
 だが、次に行く店がまたすぐ倒産するようでは困る。
 行きつけだった美容室の隣にも美容室があり、そこは営業を再開してい
る。
 入ろうか。
 逡巡しているうちに、そこも倒産。
 昨日、意を決して、廉価な価格設定の美容室に行ってみた。
 実に一年ぶりである。
 安ければ倒産はないと踏んだのだ。
 が、案内されて座った席のテーブルに、五月末で閉店するという紙。
 この一年間飲食店に行っていない私は、補償付きの時短要請先が偏向し
ている不公平を思ってしまう。
 食は必須。
 でも。
 人々よ。この際、料理に目覚めようよ。
 嫌なら、出来合のものを買って、家で食べよう。
 それでは味気ないという人は、店で個食。一人で黙々と食べるのだから、
飛沫は飛ばない。
 少し前の時代までは、黙って食べるのが普通だった。子供の頃、食事中
に喋ると父親に叱られたと語る友がいる。
 今の小学生達は、教室で黙って食べさせられている。
 この際、食べる時は食べることに集中する、という文化に戻ってもいい
かも。
 酒を飲みつつ食べたい人は、強硬に抵抗するだろうか。
 海上自衛隊トップ十四人が会食し、うち八人が感染。
 厚生労働省老健局の送別会に二十三人が参加し、うち六人が感染。
 都立墨東病院の男女五人が会食後、三人が感染。
 テレビ朝日は、送別会に参加した九人中、四人が感染。
 会食クラスターの情報は途切れがない。
 ここにこそ、人数制限もマスク会食も、守ることができない人の心理が
納得されるのではないか。
 職場の仲間との会食を、正義を貫き欠席したら、上司から目を付けられ、
昇進の際に不利益を被ることになるやもしれぬ。それだったらウイルスに
感染した方がいい。どうせ重症にはならないんだし。
 昇進と感染を天秤にかけたら、人は、普通、こう考える。
 人に範を見せるべき立場の人達が身をもって教えてくれているのだ。
 ウイルスより職場の人間の思考を恐れる。
 それが人間なのに、そこを見ずに理想を押しつけても、無理。
 会食クラスターの発生を暴いて糾弾するだけの愚かしさに、そろそろ気
づきたいものである。