「何もすることがない」幸せ

 蝉鳴く夏の昼下がり。
 気怠い。
 何かをするより、何もしないで無為に時間をやり過ごしたい気分になる。
 暇すぎて、暑すぎて昼寝、というのもいいかも。
 私は無理だけど。
 朝十時頃から二十分ほど昼寝をしてしまったのだ。
 いや、昼寝ではなく、朝寝だ。
 困ったもんだ。
 しかし、今日は、理想的な夏の生活リズムを実行できた初めての日なの
だった。
 寝るのは深夜を大きく回ってから。
 朝は、その分、遅くなる。
 だが、夏は、日の出前から朝の気配が満ち溢れ、身体が起きたがる。
 今起きたら睡眠時間が足りなくて、頭が朦朧として、一日をふいにする。
 そこで、数日前から零時前に寝るようにした。
 昨日は二十三時二十分。
 すると今朝、目が覚めたら五時二十分。
 六時間睡眠では足りないけれど、起きよう。
 洗濯をした。
 タオルは室内干しがお勧めで、日に当てたい場合は乾いたらすぐ取り込
む。そうしないとごわごわになる、というタオルメーカーの情報に従い、
十時前には取り入れた。
 一日が長いなあ。
 贅沢。
 だが、猛烈な睡魔に襲われ、机に突っ伏したのだった。
 ところで、タオルを取り込む際、花のプランターの方に目を向けたら、
その足もとに蝉がいた。
 腹を上にして、ひっくり返っている。
 一匹が一瞬鳴き、数日後にやはり一匹だけが短く鳴いたのは七月八日だ
ったが、もう昇天する蝉が現われたのか。
 時は止まらない。
 時を無駄にするな。
 よく言われる言葉を思ったら、私の心が立ち止まった。
 何もしないのは、時間を無駄にしていることになるのか。
 資料を連続スキャンしていたら、突然、スキャンしている最中の機械音
の長さが異常に短くなった。
 変だ。
 正しくスキャンできたはずの分だけは救おうと編集画面にしたら、案の
定、最後の方は豆粒ほどの白紙の長方形で、スキャンできていない。
 それらを削除し、保存してから、原因究明に取りかかった。
 土曜の夜だ。
 メーカーは、週末は問い合わせにも応対していない。
 まずは寝て、翌日曜日に改めて取り組めばいい。
 なのに、買い直す場合を想定して後継機を調べ、ないとわかって焦った
りして、夜が更ける。
 結局、翌朝、パソコンとの接触を疑ってアップルに相談し、一時間後に
力が抜けるような解決に至るのだったが、この時のことを思い返すと、差
し迫ってすることがないことほど幸せなことはない、と私は思う。
 刺激は、自ら求める時だけでいい。