ガシガシ噛み砕きたい

 初めて市販のシチューのルーを買って、作り、ご飯ではなくパンで食べ
たくなった。
 久しく遠ざかっていた小麦粉の味も恋しかったのだろう。その点はバゲ
ットで正解だったが、硬さには満足できない。
 お米の場合、いつも玄米を三分づきにしてもらっている。
 玄米だとさすがにもごもごするので、若干の粘り気を求めて、三分づき。
 これも、噛み応えはあるが、硬いとは言えない。
 犬と骨を思った。
 なぜ、犬と言えば、ダンベルのような白い骨なんだろう。
 犬が骨を噛むのは、狩猟動物としての本能が骨を噛むことで満たされる
からだとか。
 いいなあ。
 私は犬か・・・。
 けど、日本語には、
「顎がだるくなる」
 という言い回しがある。
 もう死語だけど。
 昔は人間も硬い食べ物を食べていたのだ。
 生きる時代が間違っているのか、私・・・。
 こんなくだらぬことを考える背景には、緩やかなる体重の増加があった。
 変化は、緩やかだと、変化だと認識できない。
 朝晩の体重計の数値で認識しても、無視。
 ところが、足の甲のカバー部分が広い靴を久しぶりに履いたら、右側の
靴のベロの端が甲に食い込んで、痛い。歩いているうちに革が伸びると思
っていたけれど、脱いだら、ベロの跡がくっきり。
 以前、太ったら指輪が入らなくなった。
 足も太るのか。
 仕方がないと諦めて、無抵抗、不戦敗の姿勢になりかけていた私を揺さ
ぶったのは、オリンピックだった。
 選手達の引き締まった身体が、
「それでいいのか」
 と私の心を刺激する。
 で、なぜ太るのかと分析したら、食べる量が増えていた。
 でも、お腹が空くんだもん。
 食べてから満腹中枢が指令を出して満腹感を感じるまでには時間差があ
る。
 一口ごとにどんな味を感じているかをレポートしてみたらどうだろう。
 早速やってみた。
 しかし、数回噛んだら口の中から食べ物が消える。
 日本歯科医師会は一度に三十回以上噛むよう推奨しているようだが、そ
んなの無理。
 ここに、食べ物が柔らかいのが問題なのではないか、と思いが至ること
になった。
 顎が疲れるほど噛まないと消化できない食べ物があったら。
 食べ過ぎを防げるだろう。
 それに、苛立っていた神経は落ち着くのではないか。
 チューイングガムよりよっぽどスマートだし、何より食事は必然なのだ。
 この論理が有効かどうか、私自身で検証してみねばなるまい。
 そのためにも、硬い食べ物!
 もちろん、美味しさは必須だ。