十一月

 もう十一月・・・。
 困惑したのは、今年は金木犀の匂いを嗅がなかったから。
 普通は十月十日前後に香り始める。
 その時期に私は外に出ていなかったのだろうか。
 別にいいけど、今年ははずしたと思うと、なんか物足りない。
 と思っていたら、数日前、どこからともなく香りがした。
 今日は、しっかり金木犀の花も見た。
 ほぼ一ヶ月遅れの開花である。
 七月初めに購入した鉢植えのミニトマトは、その時すでに成っていた青
い実が赤くなったし、すぐに黄色い花が咲き、またすぐ収穫できた。
 ところが、その後は花が咲かない、実が成らない。
 そのうち、葉がくたびれ始めた。路地植えと違い、すぐに土が乾いてし
まうからか。
 どうも私は野菜類は駄目みたい、やっぱり花一筋にしようと思うも、水
やりをやめて寿命を絶つのは不本意ゆえ、毎朝、水はやった。 
 すると、十月頃から葉が盛大に伸び始めた。
 でも、熱が冷めている私は、脇芽を摘んだりしない。茎は上へ上へと伸
び放題で小さなジャングルだ。
 まあ、よい。緑は見ているだけで心安まる。
 だが、茎が支柱のてっぺんを越えるまでに育って、どうしたらいい、と
困惑していたら、ある日、ガタンと音がして、鉢がこけた。台風並みの突
風に倒されたのだ。
 鉢を起こし、風でも倒れないようにしてから、上に向かいたがる枝を下
に誘導し、そこから再び上に誘導するというわけのわからないことをし、
紐で支柱とゆるく結んだが、茎は一体何本あるのやら。広がった葉と、別
の茎から伸びている葉を交差させるという荒技で、地べたを這うことだけ
は回避する。
 やがて、黄色い花が咲いた。
 十月末は普通に収穫の季節なのか。
 真夏に萎れたのは、今年の夏が暑すぎたからか。
 金木犀が十一月に咲く不思議と結びついた気がした。
 ただ、今は朝晩と昼の温度差が十度以上もある。
 青い実が全然赤くなりそうにないのは、そのせいかも。
 このまま落ちるのか。
 生い茂った葉に養分が奪われている可能性だけは排除しようと葉を切り
まくった。
 今日、ほんのり赤く色が変わり始めたのが一つ、二つ。
 黄色い花は次から次へと咲く。
 全部、収穫できたら嬉しいな。
 ところで、今日、道の脇の草をキャンバス生地のかばんで避けて歩いて
いて、予感がし、見たら、ひっつき虫が付きまくっていた。
 すすきの穂は、日差しを浴びて燦めいていた。
 十一月だが秋のさなかのような一日だった。