新聞紙で作る箱

 前回、「立秋」だが体感はまだ夏、というようなことを書いたつもりが、
体感のままに手が「立夏」と書いていたと気づいたのは、数時間後。
 すぐに訂正したけれど、実は、さらにもう一箇所、
「ちゃんと私の視界に入っている」
 と書くべきところ、「と」を抜かして「ちゃん私の視界に入っている」と
書いていたことには気づかなかった。
 そこまで読み返さなかったのだ。
 めげた。
 自分で気づくには、一度頭から消し去るぐらい時間をあけることが必要だ
と反省した。
 一方、人に言われて気づく時は、理解の地層が深まるとか、点と点の理解
が線になる、というような別の次元のことが起こる。
 歯ぎしり、歯の食いしばりが著しい私は、マウスピースをして寝ている。
 その調整に、定期的に歯医者に行く。
 定期通院の患者には歯科衛生士の担当を決める方針なのか、歯垢除去など
は、毎回、同じ人がしてくれる。
 椅子に座って、まず、この人にマウスピースを渡す。
 薄く水を張ったプラスチック容器ごと渡すのだが、容器は完全防水ではな
いので、万一、水漏れしてもいいように、底が正方形で蓋なしの箱をチラシ
の紙で作り、その中に入れている。
 それを見るたび、
「いいですねえ」
 と言われる。
 毎回なので、折り方を教えてあげたらいいかも、と思い、折り方を紙に書
き、かつ、途中まで折ったいくつかを小さいサイズで用意して、渡した。
 新聞紙で作るゴミ箱と言えば、私が知っているのは、叔母の家で、蜜柑と
一緒に出される折り方だけだった。底が長方形で、上部の右と左にぴらぴら
の部分があり、手で持ちやすいとも言えるが、それがない両側は強度がない
のが難点。
 ところが、この手の幾何学的三次元思考に長けた人はいるようで、底が正
方形で、上部の四辺がしっかり二重になる折り方が紹介されているのを見つ
け、以来、私はそれを採用している。
 もっとも、生ゴミ用には底に厚みのない別の折り方のを使うので、これは、
広告チラシで小さめに作り、その一つ一つにハンカチやソックスを入れて引
き出しに入れる、というような使い方をしている。
 引き出しを開ければ一目瞭然。整理整頓にも役立つ。
 マウスピースの容器入れも、そういう応用の一つだったのである。
 歯科衛生士には喜んでもらえたが、それを機に馴れ馴れしくなるようなこ
とはない。
 けど、気さくに話しても大丈夫な相手、と私のことを思ってもらえた可能
性はあるかも。
「あのお」
 先日、言われた。
「口の中で、舌はどうなっていますか」