ネイルサロン

 先日服を買ったら、店内のネイルサロンで指のマッサージをしてもらえる
という券をくれた。
 急に寒くなり、指先がかさついてきたところだったので、ありがたい。
 ところが、二人のうち一人だけが接客中なので近づいたら、
「これから予約なんです。できれば予約していただければ」
 と言われる。
 予約なんて大げさ、と思い、次に行く機会があった時に立ち寄ったら、や
はり断られ、いつも閑散としていて、これでよく経営が成り立っているなあ
と見えていたのは、私の目が正しく見ていなかっただけ、とわかった。
 電話で予約して行った。
 その時刻の少し前に、かばん売り場の顔馴染みの店員に、これから指のマ
ッサージをしてもらうと話したら、
「女の人は自分の視界に入る指先が綺麗だと気持ちが上がるから」
 と言われ、それって私だけの発想じゃないんだ、とびっくり。
 もっとも、続く言葉は、
「だから、ネイルサロンに行く女の人は多いみたいですよ」
 一方、私の場合は、だから指輪で楽しむ。
 指輪は、その日、自分を守ってくれそうな色を選ぶだけなので、時間を取
られない。それがいい。
 ほかにも、爪のアートを楽しむ以前に、爪そのものに関して私が二の足を
踏む理由があった。
 自分でマニキュアをしていた頃、爪を守るベースコートをしても、
「しゅわっ」
 爪から絶えず何かが揮発するような、爪を縮ませようとする力が、マニキ
ュアを落とすまで消えなくて、マニキュアは合わないと思い、やめた。
 プロにやってもらったらそうならないかもしれないけれど、さらには美容
室で美容師と話をしたいと思わない私、という問題がある。
 じゃあ、なぜ、かばん売り場の店員とは話をするのかというと、最初に彼
女の接客で買ったあと、目が合うと会釈し合うようになり、やがて、彼女が
暇そうなら、ちょっと会話するようになったので、純粋に店員と客という関
係とは違うのだ。 
 お喋りは好き。知らない人と話すのも平気。
 ただ、客の私という優位性で、私のつまらない話に付き合わせることにな
るかも、と思うと、心が屈託する。ならば無言で、となると、それはそれで、
頭がくっつきそうな近さで長時間の無言は、相手に変な緊張を与えそう。
 しかし、案ずるより産むが易し。
 指を三十分ほどマッサージをしてもらうあいだ中、私は喋り続けた。
 この仕事に関する好奇心で、質問が溢れたのだ。
 ネイルサロンは最初で最後かもしれないから。