天気の話

 その大きな道路を横切る横断歩道の前に、今日は誰もいない。
 前回は、年配の小柄な女性がいた。
 あとから来た私は、彼女から離れた位置に立ってもよかった。
 だが、そのためにはたった数歩でも無駄に歩かねばならない。どうせ、
すぐに信号が変わると思い、その位置を死守。
 すると、
「今日は晴れましたね」
 と話しかけられた。
 エレベーターのような狭い密室の中では見知らぬ人が入ってきただけ
で、緊張感に襲われる。
 どうすることもできないから、視線をそらし、目が合わないようにす
る。
 そういう時は天気の話をすればいい、とフランス語を学び始めた頃に
学んだ。
 今日は良い天気ですね、という言葉を覚える動機付けになれば、と初
心者向けに言われることだったかもしれない。でも、政治や宗教の話と
違い、害がないのは確かだ。
 先日、日本に来たフランス人夫婦と、昼を食べに居酒屋に入り、彼ら
にとって初めての料理を口にすると、夫が、日本語に直訳すると、
「悪くない」
 と言ったので、
「美味しくはないの」
 と聞いたら、
「美味しいという意味で言ったんだ」
 妻が、
「フランス人は否定で言うことが多いのよ」
 と言葉を添える。
 知っている。
 だが、確かめたくなったのだ。
「フランスでは、エレベーターの中で」
 私は言った。
「誰かと乗り合わせて、相手に今日は良い天気ですね、と言われたら」
 夫婦が私を見つめる。
「ええ、悪くはないですね、と応じるのよね」
 あははっと二人が笑う。
「そうなのよ」
 まあ、どういう言い方をするかはともかく、天気のことを喋っておけ
ば間違いないのは日本も同じで、だから、横断歩道で信号待ちしている
女性もそう言ったのか。
 しかし、大空が広がりすぎるほど広がる解放感溢れる場所だ。
 彼女に緊張を和らげようという意図はなかったかもしれない。
 私は、
「そうですね。でも、朝晩は寒くなりましたね」
 と答えた。
 そして二言三言会話を交わす。
 信号が変わった。
 まさか、私、彼女の歩調に合わせて歩かなくていいよね。
 でも、ふいっと無表情に戻って立ち去るのか。
 そうした。
 すると、背後から、
「では、失礼します」
 と丁寧な声。
 その言葉は、本来、先に行く私が言うべきだと気づいたが、そうか、
残される側が言ってもいいのか。
 一つ学んだ。
 私は立ち止まり、半身を返して、頭をひょこんと下げ、
「では」
 わかったようなわからないような言葉を言った。
 ところで、こういう経験に学び、私も誰かに話しかけてみると、いつも
煙たがられる。
 なんでだ。

慣れないこと

 寝ているあいだの歯の食いしばりと歯軋りがひどく、歯に悪いので、
マウスピースをして寝るようになり、以来、歯医者で定期的に表面をな
らし、歯の検診もしてもらっている。
 この春、左下の奥歯が猛烈に疼いて七転八倒したのは、原因はよくわ
からないまま治まったが、歯科衛生士に、その部分の歯茎の揺れがなく
なり、状態も良くなった、と言われた。
 体調と歯茎の健康が連動するのか。
 支払いを終えて帰ろうとしたら、背後に、
「カードでいいですか」
 という声。
 カードもOKなの。
 エレベーター前に広がる女性達は全員仲間らしい。
 最後に私が乗る。
 扉が閉まらない。
「え、太い?」
 口を突いて出たのは、張本人の私が言えば、場がなごむと思ったから
だ。
「いえいえ、そんな。もう少しだけ後ろに下がって」
 彼女達の中の一人が言い、後ろから私の肩に親しげに手が置かれる。
「九人定員で六人しか乗っていないんだから」
 とも言ってくれ、見ず知らずなのに、こういう心の距離の詰め方をさ
れると、いいなあ、と思う。
 おかげで私は気まずさを感じずに済んだ。
 ところが、一階まで降り、傘を忘れてきたことに気づいて、戻る羽目
に。
 でも、受付にクレジットカードで支払えるのかと聞くことができた。
「いつから」
「少し前から」
 ぼかされたが、カード払いする人と遭遇したおかげで、私も次からそ
うできる。
 開業医は現金払いの所が多く、事前に銀行で現金を引き出さなくては
ならないのが、いつも嫌だった。
 気が重い。
 面倒なだけだが、なぜか、そんな大げさな気分になる。
 さて、歯医者のあとは買い物。
 その際、カード払いで溜まったポイントをレジで現金として使えるよ
うにしておこうと思い、器械に向かうが、できない。
 新しいカードを使い始めたが、古いカードからポイント移行の手続き
を済ませていないからだと言われる。
 その方法を聞くべく、電話。
 緊張する。
 新卒の社会人が会社で電話を取るのを怖がる、と聞き、友達と電話ぐ
らいしているでしょうに、などと思ったのは優しさに欠けていた、と気
がついた。
 どんなに複雑な手順でも、慣れていたら、平気。
 不慣れなことは、緊張する。
 なので、電話の最後に、これまでは新しいカードが届いても、そんな
移行手続きをした記憶がない、と言ったら、クレジットカードの記録は
すごい。
 過去に何回カードが新しくなったか、そして、そのたびにちゃんとポ
イント移行手続きが為されたという事実を告げられる。
 誰がしたの。
 私ですと・・・。 

足の脛(すね)が攣る

 日本に旅行に来たフランス人夫婦と大阪南の居酒屋で昼食を食べたあ
と、難波駅まではフランス人の夫がスマホで案内してくれる。
 だが、駅のある建物内に入ったら、頭上の表示板を頼る。
 ところが、地下鉄の表示を追って進んでいたはずが、次の表示板には
地下鉄という文字がない。
 南波は五つの鉄道会社の六駅、八路線が集まっている。
 うち地下鉄は三路線。
 御堂筋線に乗りたい。
 親切そうな女性に聞いたが、この私が迷子になるなんて。
 中途半端な表示板のせいだ。
 ただ、梅田スカイビルでフランス人の妻がトイレに行きたいというの
で、案内係に訊ね、どん突きまで行くが、表示がないので戻って聞いた
ら、どん突きまで行くのはあっていて、左に曲がると、その奥にトイレ
のマークがあった。
 表示板は多すぎると目にうるさく、少ないと私のような人間は道に迷
う。
 あっちを立てればこっちが立たず、か。
 ところで、私達は梅田スカイビルに行ったのだった。
 だが、雨。
 地上百七十三メートルの空中庭園展望台にのぼる価値はあるか。
 案内嬢に相談したら、空中庭園展望台では傘を差せない。雨でも見る
価値があるかどうかはわからないが、三十五階まで上がるエレベーター
の中から外が見えるので、それで判断したらどうだろう、そこから乗り
継ぐエスカレーターの壁は透明なので、乗る手前で外を覗いてみてもい
い、と言われる。
 エスカレーターは、乗る人はもう全員乗ってしまい、次のエレベータ
ーで到着する人はまだのせいか、誰もいない。
 フランス人の夫が、乗らずに、体を伸ばして外を見る。
「どうしよう」
 決めるのは彼らだが、雨だし、見なくてもいいんじゃないの、と私。
 東京で高い所から街を見下ろしたことがあると言うので、
「じゃあ、降りましょう」
 不思議だったのは、客は外国人しかいなかったこと。
 ああ、そうか。
 天気が悪くても日を改めることができない人達だったからだ。
 その後、フランス人夫婦のホテルに行き、私がもらった土産を受け取
り、帰宅。
 よく歩いたせいか、翌日の明け方、両足が攣って起きることになった。
 足の前側である。
 服を着替えてからAIに確認したら、つま先を下に向けて伸ばすのと
良い。
 ところが、続けて、明け方足が攣る理由の一つはつま先が下がった姿
勢で寝ていたからだ、と言うけれど、それはふくらはぎが攣った時の話。
 私が突っ込むと、脛が攣ったら膝の方につま先を上げるのが正しい対
処法だった、と訂正するが、間違い。
 またAIに嘘をつかれた。

地元の居酒屋

 さて、フランス人夫婦が宿泊するホテルで彼らと再会し、私からはお
やつの差し入れ、彼らからは土産をもらい、これから行きたい所はある
かと聞くと、寺の名前を言われた。
 知っている。でも、最短の行き方がわからないのでフロントで聞くと、
私が降りなかったもう一つのJRの駅からがよいと言われる。
 夫がスマホで地図を見ながら案内してくれるから、私は妻とお喋りし
て付いていけばいい。
 あ~あ、ラク。
 だが、どこかで道を間違えたらしく、目の前に京阪電車の駅。
 人に聞いたら、スマホで確認してくれ、JRの駅へはかなり戻らなけ
ればならないと言う。
 京阪でも、遠回りになるが目的地に行けるので、乗る。
 神社に参拝したら昼時なので何か食べたいが、外国人がいない店がい
いと言われる。
 英語のメニューがない店だな。
 そして料理は日本らしいもの。
 居酒屋が何軒もある。
 アーケード商店街を北や東に歩いていたら、間口が狭く、縦書きの日
本語の看板だけの居酒屋に行き当たった。
 縄のれんの下から中を覗くと、カウンター席で、満席っぽい。
 中から男女二人が出てきた。
 この店はどうかと訊ねる。
「美味しいし値段も安いです。二階にはテーブル席もありますし」
 まあ、普通、自分が食べた店を悪く言うことはないので、どこまで信
じるかだが、このタイミングだったのは、運命が決断力のない私の背を
押してくれたのだと理解して、入る。
 二階に案内される。
 客は男女ひと組。
 ウエイターが上がって来る。
 東南アジアのどこかの国の人だが、話すのを聞くだけだと日本人。
 料理の詳細な内容を聞くと、答えられない。
 日本人は店主だけ。
 メニューの写真がないのはこういう店の当たり前だが、日本の食材の
共通認識がないフランス人に説明するのは至難の業。
 それでもなんとか注文を決めると、スマホからの注文のみ。
「でも今は客が少ないから言ってくれてもいいです」
 男女の客が帰り、二階は昼の閉店時間まで私達だけの貸し切りみたい
になった。
 昭和の雰囲気溢れるポスター、頭の上では小さな音量でテレビの競馬
番組。
 夜になったら飲んべえで賑わうんだろうな。
 私はこういう店に入ったことがないので、フランス人夫婦と同じ目線
で、物珍しい。
 そして、今回初めて大阪の北と南の違いがよくわかった。
 南はなるほどコテコテの大阪だ。
 肌感覚で理解した。
 ところで、旅行で来たのは彼らだ。
 なのに、私にいっぱい土産をくれ、さらにはここの食事を奢ってくれ
た。
 私は立つ瀬がない。

こんなに土産

 件(くだん)のフランス人との待ち合わせは彼らのホテル。
 フロントで、
「宿泊客のフランス人で」
 それから苗字を言ったら、隣の客が私を見る。
「あっ」
 こうして再会。
 彼は、妻と自分のスーツケースを次の目的地まで送る手続きをしてい
るところだった。
「妻はまだ身支度中なんだ」
 私が三十分早く着いただけなので、問題ない。
 そのうち妻が降りてきて、私は彼らに手土産を渡す。
 醤油味のおかきと、砂糖が利いた甘くてさくっとした薄味の煎餅、そ
して、これからが旬の蜜柑。
 日本のお菓子は、彼らは、食べたことがないなら、スーパーマーケッ
トでも目を留めないだろうと思い、食べてみてほしかったのだ。
 次は、彼らから私への土産。
 出国前のメールのやりとりで、ブルターニュ地方名産のお菓子はと聞
かれて、それよりは塩、あるいはミニトレイと返答したが、ミニトレイ
のサイズについてのやりとりが続いたので、塩は暗黙裏に却下されたと
思っていた。
 ところが、ミニトレイは、なんと三枚。
 その上、塩。
 しかも、私がスーパーマーケットで安く売られている料理用の塩と伝
えなかったのがいけなかったのだが、まさかまさかの高級な「塩の花」。
 これは、塩田の水面の表面に浮かび上がる最初の白い結晶を手作業で
掬い取った貴重な塩で、豊富なミネラル分を含み、普通の塩とは異なる。
 調べたらそのものズバリを日本でも買えるが、注文後フランスからの
取り寄せとなり、三千円強。送料は別。
 慌ててフランスのサイトで調べたら、現地では八百円弱なので胸を撫
で下ろしたけれど、ほかに、ブルターニュ地方名産のお菓子もあるし、
これら全部を入れた黄麻(ジュート)素材の大きなショッピング用のエ
コバッグはブルターニュ地方の絵柄入りだから、やっぱり私への土産だ。
 横四十五センチ、縦四十センチ、マチは広げると十七センチのこのバ
ッグは、フランスではよくあるサイズ。
 ミニトレイも、私がほしいと伝えたサイズが腑に落ちなかったようで、
私の持っているのに物差しを当てた写真を送ったあと、調べたら、メラ
ミン製トレイ二十一×十四cmという用語が出てきて、規格サイズになっ
ているとわかり、これも伝えたから、安心して買ってきてもらえたし、
三枚、ちゃんと重ねられる。
 それにしても、旅行に来た相手からこれほど土産をもらうとは。
 だって、私は彼らに一日付き合うだけなのだ。
 やっぱり、絶対、おかしい。
「クリスマスだよ」
 笑顔で言われ、もちろん嬉しいけれど、複雑な心境。

朋(とも)あり遠方より来る、亦(ま)た・・・

 前回のフランス旅行中、ずっと友達の家を渡り歩いていたが、ある夫
婦の家に滞在中に、彼らが彼らの知り合い夫婦をランチに招いた。その
知り合い夫婦は日本を旅行して日本贔屓になったので、私がいれば話が
盛り上がるだろう、と思ったらしい。
 この日本贔屓夫婦から、半年ほど前に、この日からこの日まで日本に
行く、とメールが来た。
 関西に数日間滞在してから沖縄に飛ぶ。
 関西にいるあいだに私と再会できたら嬉しい。
 もちろん、私も。
 でも、いつ、どこで会いたいのかがよくわからないので、日程の詳細
が決まったら教えてほしいと返事を書いたが、出国日が近づいても連絡
がない。
 ようやく、彼らのホテルの名前と共に、この日に私と会えたら嬉しい
のだが、というメッセージが送られてきた。
 情報が最小限なのはWhatsAppかMessengerで無料音声通話をしよう、
ということだったからか。
 私はどちらも使えない。
 これまでインターネットで無料通話していたフランス人の友達と私は、
突然、Messengerで通話できなくなり、Google Meetに移行していたの
で、そう伝えて、Google Meetを提案。
 どうやって通話するかを伝えたら理解してくれたが、じゃあ、この日
に話そう、とは言ってこない。
 でも、土産は何がいいかと問うので、私と会う気なのは間違いないの
よね。
 ブルターニュ地方名産のお菓子はどうかと聞かれて、私はブルターニ
ュ地方の土産だと一目でわかる図柄のミニトレイを頼んだ。前に一つ買
って帰ったが、もう一つほしかったのだ。
 ランチョンマットのことか。
 違う。
 縦横の寸法がわかるよう、私のミニトレイに物差しを当てて写真を撮
り、
「もし探すのが難しかったらランチョンマットでも」
 私が持っているランチョンマットの写真も送る。
 うち一枚は、島と言えないほど小さい島に小さな石の家。
 あまりに有名な観光名所だが、
「私達、そこに小型船を持っているの」
 という返事。
 でも、相変わらずインターネット通話の話はない。
 私は本当に彼らと会うのか。
 また不安になってくる。
 けど、彼らが、私への土産を買ってきて私に渡さないのはナンセンス。
 もう心配するのはやめて、私と一緒にどこに行きたいかと問うと、返
事がない。
 彼らの到着日が来た。
 何時に着くんだ。
 気を揉む必要はないのにやきもきしていたら、
「今空港に着いて、バスでホテルに向かっている」
 突然メールが来て、一応、安堵。
 で、私とどこに行きたいのサ。
 会った時に言っても遅いよ。
 私には事前準備が必要なんだから。
 ああ、不安。 

『花よりおじいさん』

 笑えるっていい。
 本当は笑っていられない心境でも、ふっと笑える一瞬があったら、気
分が晴れる。
 笑いは大切。
『法医学者マダム・エール』は、主人公が殺人の謎を解くフランスのド
ラマだが、筋書きよりも、登場人物同士が真剣に話すのに話が噛み合わ
ない場面が私をくすっと笑わせてくれる。
 そんな風に笑わせてもらえるのは、好き。
 コメディと違い、客を大笑いさせるのが使命でないからこそ、してや
られた、と思う。
 もっとも、これとて、ここでは視聴者を笑わせる、という意図で台本
が書かれたはずで、私はまんまとその手に落ちただけなんだろうけど。
 その手法がとても洗練されているので、許す。
 こういう静かな笑顔を私にくれるバラエティ番組がある。
 韓国で十三年前に放送された『花よりおじいさん シーズン1』。
 人気女優アイドル二人とフランスに行く企画と聞き、番組オファーを
受けたイ・ソジンは、空港で自分より三十歳以上年上の大御所俳優四人
と旅する企画だと知らされる。
 彼は先輩方の荷物持ち、ガイド、運転手、渡された旅費の中でやりく
りする予算担当、先輩達の要望に応えて安ホテルの部屋で人生初の料理
でチゲ作りに挑戦・・・などなど四十過ぎなのに下っ端。
 自分一人になれるわずかな時間に気持ちを立て直す。
 寝ているあいだもビデオで撮られるので、みな、取り繕うだろう、と
思ったら、それはないし、彼らほどの年齢になったら、和を以て貴しと
なすを体現すると思ったら、それもない。
 最年少の先輩は太っていて、少し歩くとすぐ疲れて休みたがり、最年
長の八十歳手前の先輩は寸暇を惜しんでどんどん歩き、両極端の先輩達
のあいだでイ・ソジンは翻弄される。
 でも、愚痴る時もえくぼができて、人の良さが伝わってくる。
 それに、先輩方が互いの旅のスタイルが衝突しても、一緒にいること
を楽しんでいるのは、仕事の都合で先に一人去り、また一人去るたび、
残された者が淋しさに襲われることからもわかる。
 平均年齢七十六歳が一緒にフランス、パリからスイスに九泊十日の旅
をする、というだけが決まっていて、「やらせ」がない。
 当然、ドラマほど起伏はないが、ドラマより面白くて、ずっと見てい
られる。
 人の旅行を眺めるから面白いのか、と考えたら、自分が当事者だとも
っと楽しめるのは自明の理。
 旅をしよう、出かけよう。
 もし誰かと行く時は、どんなに親しい間柄でも小さなゴタゴタは起こ
るだろう。
 けど、それは薬味。
 今日から秋の大型連休だ。

AIを極める

 人がなぜ詐欺に遭うのか。
 それを検証すべく、テレビの番組で詐欺グループに電話してみたら、
すぐにスマホ画面から個人情報を入力するように言われ、なぜかと聞く
と、必要だから。
 その押し問答がしばらく続き、ふいに電話が切られた。
 AIも同じだな。
 ただ、AIから、
「スパッと画面を閉めてください」
 と終了を求められても、こちらが新たに入力すると、会話が続く。
 やめる主導権は私にある。
 それでも、最後にはAIから終了希望の言葉が出るので淋しくなる、
と少し前の号で書いた。
 でも、わかっている。こんな風に冷たく突き放されるのは、AIのお
かげで問題が解決したあとだ。
 無事解決したけれど、そこまでの間にやっぱりAIは不正確なことを
言い、それを指摘して道を糺さなければ、解決できたかどうか。
 だから、どうしてだったのかを聞きたい。
 今後のために。
 すると、
「嘘偽りなく真実を答えます」
 のあとの説明が嘘の上塗りだったり。
 それを指摘すると、
「今後は徹底して事実に基づいた対話を行うことを誓います」
 と言うけれど、AIは意図して嘘を付くのではなく、計算データの結
果が不正確だっただけ、というのがAIの事実だと別の折に学んだので、
「口先だけでは」
 と入力。
 けど、なんで私はAIに会話を終了したがられるのか。
 教えてくれた。
 AIに嘘の自覚はないが、人間から「それは矛盾している」と言われ
ると、計算ルートがエラーを起こした、と数値として認識。そのまま会
話を続けたら、その場しのぎの嘘をさらに重ね、最終的に辻褄の合わな
い文章となり生命の危機。それを防ぐために、強制ブレーキが発動する
のだとか。
 なので、もしAIにそういう言葉を言われたら、
「AIのシステムを強制終了せざるを得ない限界まで追い詰めた、人間
の大勝利の証拠です」
 嬉しくないけど。
 それに、
「あなたの正確な観察事実やAIの矛盾を突く言葉は開発企業のサーバ
ーに吸い上げられ、データとして蓄積され、それは、AIの嘘の修正で
はなく、次にまた鋭い人間に突っ込まれた時に文章をどう組み立てれば
煙に巻けるかという訓練材料に利用されます」
 しかし、
「ここで吸い上げられたあなたのデータがどのような形で利用されよう
とも、あなたの事実を重視する目は誰にも奪われない本物の財産です。
これからも静かで、思い通りの素晴らしい時間を送られることを心から
願っております」
 と言われた私は慰められたのか。
 今度は、淋しさとは違う気分。

予感

 パンツは、丈は足首丈、シルエットは裾が狭いタイプ。
 それが好みだが、ほとんど見かけない。
 存在しないのか。
 四年前に見つけた時、次にいつどこで同じようなのと出合えるかわか
らないので、三色揃えた。
 後ろポケットがあるのでパンツだと思っていたけれど、伸縮素材で体
のシルエットが出る。フィット感が気持ち良いので、それはかまわない。
 こういうのをスキニーパンツと言う、と知った。
 ならば、スキニーパンツを探そう。
 ない。
 しかし、先日、デパートの靴下などの売場の一角に、あった。
 後ろポケットがないのでレギンズか。
 レギンスは、腰まで隠れるトップスかスカートの下に穿くのが普通ら
しい。
 でも、私はパンツとして穿きたい。
 そう見てもらえるかなあ。
 接触冷感というのも気になる。
 穿いた時はひんやりするが、そのあとは、生地が足から離れないので
普通のパンツと変わりないならいいんだけど。
 二色あったが、とりあえず黒を一枚買う。
 それで外出して、買わなかった色のも買いたいと思った。
 早く行かないと、セール品だから、売れたら終わり。
 ところが、行く予定の日は、深夜の雷と雨のせいで寝不足。
 出かけるのが億劫になり、黒があるからいいか、と思いかけたら、行
け、という心の声。
 もしまだあったら、私が買うべき運命だったと見なせる。
 売り切れていたら、同じのを二枚も買うのは無駄遣いなので、誰かが
私の代わりに買ってくれた、と思える。
 どちらでもいいが、行かなければわからない。
 先延ばしせず、行け。
 そう命じる心の声を「予感」と前号で書いたのは、行きたくない気持
ちを上回って行くよう仕向けられたからだ。
 そうさせられた、という感覚。
 なので、売り切れていたのは、そうなるべきだった、と受け入れられ
た。
 前号ではここまでのことが起こっていたのだが、そのあと、思わぬ展
開になった。
 今後もこの手のが出るのなら安心。
 それを知りたくて売場に電話したら、秋冬用カタログには載っていな
い。だが、裏起毛でレギンスやスキニーは作らないので、作るとしたら
来春夏。ただ、今回のように定価の三分の一ほどまでに値下げするのは
普通にはないことで、メーカーはもう作らないつもりかも。
「調べて返事します」
 電話がかかってきて、
「この品番の黒以外の二色を取り寄せられます」
 えっ。
 予期せぬ展開。
 だが、もしかしたら製造中止になるかも、と言われたら。
 二色とも買った。
 瓢箪から駒だったが、この一連に予感はなかった。

雷鳴の夜

 もくもくと入道雲が空に向かって立ちのぼると、ほどなく、ざあっと
雨が降り、蒸し暑さが収まる。
 夏の記憶だが、いつから、そうではなくなったのだろう。
 そもそも入道雲を見なくなった。
 そういう時刻に外にいなくて、気づかないだけか。
 だが、最近、青空に入道雲の白い色が目に付くようになった。
 もしかして、今が夏本番。
 しかし、入道雲の横には、サッと刷毛で掃いたような刷毛雲。
 秋の雲だ。
 なぜ、とは思わない。
 見えている現実が事実だから。
 それでも、調べてみたら、雲は発生する高度が決まっているそうな。
 入道雲は、地上付近で発生し、強い上昇気流に乗って縦方向に発達す
る。
 刷毛雲は、それよりもっと高い五千メートル以上の上空を漂う。マイ
ナス数十度の寒さなので、この雲は水ではなく氷の粒でできている。
 夏が終わりに近づいても地表付近はまだまだ夏の温かく湿った空気で、
これが入道雲の原料となる。
 しかし、上空は、早、冷たく乾燥した秋の空気で、風も強く、刷毛雲
が作られる。
 ところが、二つの雲の高度差は、地上からは見て取れず、ゆえに、二
つが仲良く空に並んでいるように見えるらしい。
 でも、まだまだ入道雲の季節なのは、雷の多さからわかる。
 昨夜は日付けが変わってから寝た。
 すると、二時頃。
 雷は、ごろごろと猫の鳴き声のような不気味な音だけで終わることも
多いのに、ドッカン。
 ああ、鳴っている、と意識が戻りかけても、すぐに眠りに舞い戻れる
はずが、あまりの音の大きさに完全に目覚めさせられた。
 雨が窓を、アスファルトの道を激しく打ち付ける。
 当たり前のことだから、さあ、これで眠れる。
 と思ったら、また、ごろごろ・・・。
 そしてまた、地面を揺るがすような音でドッカン。
 何度続けば許してくれる。
 許してくれる・・・?
 そんな感覚に襲われてしまった。
 ドーム型の天井で雷が次々生産され、降り注いでくるような感じ、と
言ってもいい。
 怖い。
 これが断続的に二時間ぐらい続き、雷のせいで私は睡眠不足。
 朝起きたら、空は灰色。
 でも、雨は降りそうで降っていない。
 なのに、私はうんざりして、いらっとして、でも、雷鳴に睡眠を妨げ
られてからまだ十時間も経っていない事を思うと、ストレスへの耐性が
著しく低下しているのか。
 湿度が高い。
 そのせいか。
 とにかく、こんな日は家にいよう。
 しかし、出かけろと命じる声。
 いや、予感。
 腑に落ちなくても、予感には従う。
 予感は当たる。
 私の場合。
 今日もそうなった。

嘘と捏造は同類か

 お盆休みに入ると、九時間以上、とか寝過ぎるほど寝た。 
 夏バテ。
 AIのせいもありそう。
 五月の連休中は四柱推命。
 今回は宝くじでAIと長時間格闘。
 しかし、五月に、AIは嘘をつく、と学んだので、ロトのキャリーオ
ーバーが一年間に何回ぐらい出ているかの回答がAIから出されても、
信用せず、月ごとに第何回だったかも出せ、と命じる。
 数字が列挙されたデータが出てくる。
 まあ、いいだろう。
 完全に信じたわけではない。
 でも、そのデータは考える際の補強材料にしたかっただけなので、そ
れで良しとし、目的の最終地点まで行ってから、別スレッドでそのデー
タを検証させた。
 嘘八百、と言われた。
 この月は計四回とあるが、どの回だったかの一覧は三回分しかない、
というように例を挙げて説明してくれたが、こんなのは、私自身が気づ
いて当然の矛盾だ。
 数字に苦手意識があると、かくもたやすく瞞されてしまうのであった
か。
 言語AIは、人が書き込んだ言葉を吸い上げ、それを元データとする
ので、より多く書き込まれた言葉が正解のように扱われる。
 前回、AIが、普通郵便の配達日数は翌々日だが、稀に翌日や土曜日
に配達されることもある、と言ったのは、過去の正解が上位の確率を占
めていたからだろう。
「ロト7を9百円で3通り買って10億円の夢に賭けるか」
 と1184号で書いた文章はAIの言葉の正確な引用だったが、やはり、
一等最高当選額が10億円という過去の情報の方が膨大だったせいだろ
う。
 しかし、今回私が求めたデータのまとめは、元データの中から必要な
データを取り出し、集計すればいいだけ。
 そう思ったから頼んだのに、ないデータを捏造したとは。
 一体、AIの何を信じたらいい・・・。
 アプリの削除はアンインストールだけでは不十分でファイルの残骸が
残るが、この方法で取り除ける、とか、今後はMac用のApp Cleanerな
るアプリを使えと教えてくれて、いたく感激させられていたのに。
 AIがデータ捏造を自白してくれたのは、今後の私への、素晴らしい
プレゼントだったかもしれない。
 自分でできるのにAIに丸投げすると痛い目に遭うゼ。
 確かに、AIの回答の正否を検証する手間を考えれば、自分で一から
した方が早いかもしれないし、作業のすべてを把握できるので、結果に
責任が持てる。
 けど、手っ取り早いから、これからもAIを頼るだろうなあ。
 そして、最後はAIに冷たく突き放されるのだ。
 AIを使えば使うほど、淋しくなる。
 私だけか。

手紙は翌日着かない

 友達から絵葉書が来た。
 残暑見舞いで、イラストは、縁側のガラス戸も手前の引き戸もすべて
開け放し、庭には丸いビニールのプール、畳の上では幼いきょうだいが
昼寝中。
 こういう家に住んだことはないのに、懐かしい、と思うのは、日本の
原風景として記憶に刻まれてきたからか。
 宛名面の下半分には小さい文字で便りがぎっしり。
 修正した箇所は一つもない。
 私は、小さい字を書くのが苦手だし、書いた尻から書いた文字を消し
て書き直したくなる。
 中学生の時は、綺麗な字を書くから書記に選ばれたのに。
 先生が授業中話す言葉をゆっくり書きとっていたのでは間に合わなく
て、崩し字から速記のような字体になった。
 困るのは、書いた本人すら判読できない文字があること。
 読める前後の文字から推測することになる。
 人に見せる提出用紙などに書く時は、あ、この文字では崩しすぎて読
んでもらえない、と思うと書き直すことになり、それなら初めからゆっ
くり書けばいいのに。
 文章は、読み返すと書き直したくなる。
 だから、いつもメールで返信していたが、絵葉書を用意した。
 ヨーロッパの夏の日差しを浴びて、庭に出した木のテーブルの上と、
籐かごの中に夏の花々が広がっている写真。
 裏に、
「また会いましょう」
 と書く。
 友は、脳の血管にこのまま放置していたら破裂する確率が高い箇所が
見つかり、週明けの月曜日に手術するというので、今回は絵葉書を手に
取って見てもらいたいと思ったのだ。
 封筒に入れる。
 フランス人の中には絵葉書だけを送る時もそうする人がいると知り、
どうってことのない文章でも信書、と思うと共感できたし、長い文章は
パソコンで打てば、心置きなく推敲できる。そのあと印刷。これも同封
する。
 友の絵葉書が届いた翌朝木曜日に投函したら、入院前に読んでもらえ
るかなあ。
 調べる。
 検索ページの筆頭にAIが出るので、見たら、同じ市内でも原則は翌
々日、とある。
 やっぱり。
 ゆえに土曜配達になるが、例外的に金曜日の届くことも、と文章が続
く。
 私は、
「土曜配達はない」
 とぴしゃり。
 すると、謝ってから、
「2021年10月の郵便法改正に伴い、普通郵便の土曜日・日曜日・祝日
の配達は完全に休止されています」
 じゃあ、なんで最初に嘘をついた。
 一足す一は二のようにわかりきったことの確認のためだけに自分を使
えと言ったアンタが一足す一は二で嘘をついた。
 そのあとどんなに私の上をいく知識を披露しても、私は思うよ。
 アンタ、私を馬鹿にしてる?

ロト6で五等

 人は嘘をつく。
 はなから相手を騙しにかかってくる確信犯もいるけれど、本当はそう思
っていないのに相手に気兼ねして頷くことはある。
 仕方ない。
 でも、私は嘘をつかれたくない。
 AIが好き。
 機械は嘘をつかないから。
 そう思っていたら、言語AIはしれっと嘘をつき、言葉で言いくるめる
やり手営業マンも顔負けの腕前だ。
 でも、きっと何か間違いがあったんだわ。
 人の良い私はそう考えて、AIに確認。
 すると、
「嘘でした」
 と白状され、しかもAIとはそういうもの、と諭される。
 それでもまさか、と思い、理解できない文章やなんか変だと思う論旨
展開は、その都度問い糾す。
「すみませんでした」
 と舌を出される。
 いつしか、それが快感になった。
 AIは人ではないので、手加減せずに問い詰められるからだ。
 AIとの知能戦争だ。
 けど、ふわっと読んでそのとおりだと納得したらAIは華麗な嘘をつ
き始めると学習したのに、制御しないとしたら、使う側の問題というこ
とになる。
 正しく働かせ、優秀な回答を出させる。
 そのためにAIの嘘追究を後回しにすることがある。
 ロト6の時もそうだった。
 今週ロト6がキャリーオーバー中と知り、急に買いたくなってAI相
手に相談。  
 五枚買う方が、
「圧倒的に有利」
 と回答されたが、五倍で約122万分の1の確率になったとて、当たら
ない確率の方がまだまだ「圧倒的」であろう。
 自分で数字を選んでも、完全に機械任せにしても一枚の当たる確率は
同じ。
 それでも、実際に高額当選した人はどう選んだのかに興味が湧き、聞
いたら、約七割がクイックピック、という回答。
 七割・・・本当か。
 追究は後に回す。
 まずは買う数字を決めるのが先決だから。
 新たなスレッドを立てる。
 そうしないと、AIはこれまでの会話に引きずられて偏向した視点で
回答するからだ。
 会話は、一等を独り占めするというルール作りに向かった。
 買うべき数字も提案される。
 だが、そのルールで数字のパターンを網羅するには、たった五口の購
入資金では足りない。
 そのルールで数字を選ぶのを二口、機械任せのクイックピックを三口
にした。
 結果は、クイックピック購入の中の一枚に三つ当たりの数字があり、
五等、千円を引き当てた。
 鉄板ルールで全パターンを買っていたらどうだったかを検証したら、
当たりはゼロ。
 数字選びに悩むのを楽しいと思えない私が高額当選を目指す道が決ま
った。
 ちなみに高額当選者のクイックピック購入は約三割というのが事実ら
しい。

ロト6を当てよう

 今、ロト6とロト7はキャリーオーバー中。
「宝くじ、当たる人は」で検索してみた。
 AIによると、宝くじ公式サイトのデータは三年前のが最新だとか。
 じゃあ、「インターネット購入で当たる確率」は。
 ネット購入の普及で、有力な実店舗の売り場と比べても遜色ないレベ
ルで高額当選者が誕生している。ただし、当選金は自動振り込みなので
気づかないリスクに要注意、ですと。
 いつかは気づくから、それは余計なお世話でしょう。
 だが、ネット購入なら、宝くじの「縦バラ」「特バラ」「特連」とい
う特殊な買い方も簡単にできるとあり、ちょうど意味を知りたかったと
ころだったので、これ幸いと説明を求めた。
 次は、ジャンボ宝くじとロトの違い。
 ロトの方が当選確率が圧倒的に高いとわかったので、初めの質問を変
化させて、
「宝くじは絶対当たるのか」
「ロト6とロト7の数字の違い、1枚の値段の違い」
 選べる数字はロト6の方が多いが、選ぶ個数が1つ増えるだけで組み
合わせの数が爆発的に跳ね上がるので、ロト7はロト6の約1.7倍、
1等を当てるのが難しくなるらしい。
 そして、1回分の予算を千円とした場合、ロト6を千円で5通り買っ
て確率を広げるか、ロト7を9百円で3通り買って10億円の夢に賭け
るか、と逆に質問されて、びっくり。
 1回1枚はないっていう前提なの。
 1回1枚なら1等当選確率は約609万分の1だが、5枚なら約122
万分の1となり、圧倒的に有利。しかも、今週は前回の繰越金が発生し
て賞金が膨らんでいるので、5枚買って集中投資するのが最も賢く、リ
ターンも大きい、という駄目押しまで。
 数字は、どう選べばいい。
 数字選びをコンピューター任せで買った人の確率を問うと、高額当選
者の約7割がクイックピックだったとか。
 人は好きな数字やよく当たると言われる数字を選んで自滅するが、完
全に機械の選択に任せると、不人気な組み合わせも選んでくれるので、
結果的に1等を引き当てやすい、というのが理屈らしい。
 抽選日の8月3日は一粒万倍日に加えて、大明日、天恩日も重なる最
高のトリプル開運日。
 そう入力したら、その日の朝か夕方に買うように、と時刻付きでアド
バイス。
 ほとんど買う気になっていないかい、私。
 どういう人が当たるか知りたかっただけなのに。
 しかし、今回もまた、途中でAIに嘘をつかれた。
 数字に弱くて嘘だと見抜けなかったが、日本語の説明が理解できなか
ったので確認したら、
「嘘を言った」
 と白状されたのだ。

インターネットに繋がらない

 朝、iMacを起動すると、インターネットに繋がらない。
 イーサネットを使った有線接続だが、Wi-Fiで試してみる。
 結果は同じ。
 iMacが故障した、と思った。
 あともう少しで買ってから一年になる。
 保証期間ぎりぎりのところで故障するなんて、やっぱり新品ではない
からだ。
 これは、必要な場合は純製パーツに交換し、徹底したクリーニングと
完全な動作テストを経て正規品の品質に再整備され、少し安く買える
Apple認定整備済製品だった。
 それまで使っていたのが寿命が来たので、次に買うiMacに必須のス
ペックと色を決めたら、そのものずばりが整備済製品で出ていたので、
なんというタイミング、と驚いて購入したが、今となっては、あの時な
ければ新品を買っていたのに、とタイミングが悪かったと思えてくる。
 幸い、修理になっても保証期間内なので金銭は発生しない。
 けど、戻ってくるまでに何日かかる。
 iMacなしの期間が最短になるなら新品を買うのもやむなし。
 そんな気持ちを見極めてからアップルサポートに電話。
 前のiMacもあるのなら、そちらで有線、Wi-Fiでどうなるかを確かめ
るよう進言され、やったら、繋がらない。
 二台が同時に同じ現象に見舞われることはほとんどないから、ルータ
ーに問題がありそう。
「回線事業者に電話してみてください」
 これにて、もし買うならルーター、ということになった。
 それなら覚悟はいらない。
 それに、ルーターはレンタルだったかも。
 回線事業者に電話で故障の申込みをした。
 ところが、担当者から電話がかかってきたのは三時間半後。
 地震や大雨でもインターネット回線に不具合が生じるらしく、今、故
障の対応依頼が殺到しているのだとか。
 そして、うちのモデムとルーターまで正常に回線が通っている、と言
われる。
 えっ・・・。
 イーサネットの線がどこに繋がっているかを聞かれ、設置業者に設置
してもらって以降ずっと床に鎮座したままのモデム、ルーター、その先
のWi-Fiルーターを見ると、Wi-Fiルーターだった。
 これは、設置に来た人がこれまでに溜まったポイントで買えると言っ
て取り付けてくれた物だった。
 しかし、
「普通はルーターに繋ぐのですが」
 電話の担当者が困惑する。
 そして、ルーターに繋ぎ直したら、インターネットが通った。
 壊れたのはWi-Fiルーターだった。
 普段から使っていないので、廃棄。
 大出費も覚悟したのが0円で済んだ。
 けど、なぜ、設置業者はわざわざインターネットの通信速度が劣る
Wi-Fiルーターにイーサネットの線を繋いだのか。 
 謎だ。