2017-01-01から1年間の記事一覧

信じる前に

東京から来た友達のフランス人を京都の二条城に案内し、廊下がきゅっ きゅっと鳴ると、不審な侵入者はこの音でわかるのだ、と私は得意げに説 明した。 かの有名な「うぐいす張り」廊下である。 大学時代、バスガイドのアルバイトでここを訪れた際は定番で語…

善く生きる、の難しさ

私達は、なぜ、この世に生まれてきたのだろう。 死んだら、どこに行くのだろう。 そこまでたいそうなことは考えなくても、嫌な事、理不尽な事がある と、なぜなんだ、と溜息をつきたくなる。 そういう時、宗教が心の拠り所になればいいが、一つの宗教を信じ…

願っても、叶わない

目の前の人を、未来あるいの過去の私かも、という眼差しで見て、手 を貸してあげたら喜ばれそうなら、そうする。 そうしたい、と考える私は、ゆえに、スピリチュアルの世界の、私も あなたもあの人も地面から顔を出し、好きに咲いている草花のようなも の、…

未来の私、過去の私

杖代わりに、右か左側に置いて押す、四つの車輪が付いたショッピン グカートを使う人が増えている。足元がおぼつかなくなったら、その車 輪はするする進むので危なくなるから、そこまでは年齢がいっていない 人達である。 駅で乗り換えるホームに向かう階段…

来年の手帳

お菓子や即席ラーメンの袋を開ける時、縦方向にしか開けられないよ う作られたものが多くなっている気がする、という話を、前回、書いた。 縦方向に開けるのは、中身が外に溢れ出るから、好きになれない。 それに、縦に割くしかないにしても、その破片が本体…

二者択一の弱者

先日、遠方から友達が来て、泊まった。 その翌朝、服に着替える時に、 「あれ」 と言う。 一旦着たセーターの前後ろを逆に着直してから、彼女がぼやいた。 服の裏側の選択表示のラベルは左手の側の見頃に付いているのが普通 だったはずなのに、近頃はそうで…

私に見える景色

自分が密かに思っていることを誰かがさらっと言ってくれたら、ああ、 同じように考えている人がいるんだ、少なくとも私一人だけの変な考え ということではないんだ、と安堵できる。 私とまったく同じ景色を見られる人はいない、という事実は、たとえ ば、そ…

考えが、来ない

人は、放っておいたら何かを考えるようにできている、というのは本 当だと思う。どうしても気にかかっていることがあれば、それについて 考えたくなくても考えることになるだろうし、何か集中して考えたいこ とがあるなら、それについて積極的に深く考えるで…

友は病気だったのか

先日、探偵会社の社長のインタビュー記事を読んだら、七年前に友人 関係が終了した友のことが思い浮かんだ。 電話で語る彼女の一人娘への態度を許容しがたく、意見して疎まれ、 縁が切れたが、記事は、この友に関して新たな視点を授けてくれたのだ。 探偵会…

嘘。でも本人は本気

あれま。 前回「健康診断」と書いたのは「人間ドック」の間違いでした。 人は、その気がなくても間違ってしまい、結果的に嘘を付いたことに なる場合がある。無意識のなせる技だ。 一方、わざと付く嘘は意識的。 嘘にはこの二つが混在するが、人は、どうした…

嘘つき

先日、ベンツおじさんが、明日は健康診断だ、と言った。十六、七年 前からずっと同じ病院で受けているのは知っている。 が、彼が続けて、 「子供達に、おとうさん、受けなきゃ駄目、と言われたからだ」 と言うので、 「そんなん、子供が言うわけないやん」 …

人の子がくれる幸せ

友達の小学三年生の息子が、唐突に、保育園にいた頃の話をし始めた。 その子が悪いことをすると、毎回、一人の保育士が彼を部屋の隅に連 れてゆき、おでこを指でパチンと弾き、それから、 「もう、先生の所に行っていいから」 と放免したそうな。 「そういう…

時代に遅れる幸せ

遠方に住む友に、何年も前からSkypeを使えるようにしてよ、と頼ん でいた。 だが、してくれない。 で、やっぱりそうしてくれていないことがわかった。 久しぶりにケータイに電話がかかってきて、出た途端、 「五分以内だと無料だから、五分経ったら、切って…

一瞬の判断

前回、老けない不幸、について考えた。老けない、は言い過ぎだが、 年齢に見合いすぎる変貌で驚かされるのは西洋人で、たとえば、とフラ ンク・シナトラを思い浮かべた。 彼の若い頃の顔はコオロギで比喩できる。 三角コオロギ。 この名前で合っているか調べ…

若く見えるだけ、は痛ましい

フランス人の男友達が先日送ってきてくれたのは、十五年以上も前に テレビで何回かに分けて放送されたジェラール・ドパルデュー主演の 『巌窟王(モンテ・クリスト伯)』と『レ・ミゼラブル』だった。どち らのDVDも二枚組。それぞれ表と裏に録画があるので…

本をプレゼントするフランス人達

フランス人の男友達から国際電話がかかってきた。出張先のパリから だ。東京在住で、東京からは滅多に電話をして来ないのに、なぜにパリ から、という疑問は脇に置いて、しばしの会話のあと、何かほしい土産 はあるかと聞かれたので、随分前に彼からエルメス…

人の言葉が気に触る時

皆に紙を配っていた私が彼の前に紙を滑らせた途端、 「あ、ほった(放った)」 知り合いの裕福ベンツおじさんが物申した。 「えー。放ってないよ」 隣の人が呆れてたしなめてくれ、ベンツおじさんは黙り込んだ。 私は、記憶の時間を少し巻き戻してみた。ベン…

美が邪魔する時

上司が優しいと感じていても、その上司が誰に対しても優しいという 保証はない。 組織の中で自分自身の競争相手になるような相手には優しくなんかし ていられないのだ。だが、たっぷり歳が離れて自分の脅威にならない若 者には、余裕で優しくもなれれば寛容…

美は邪魔しない

「美は邪魔しない」 鈴虫寺で聞いた説法の中で、この言葉が一番心に響いた。 五千匹以上いる鈴虫が鳴く中、 「私が話している今も鈴虫が鳴き続けていますが、鈴虫の声が私の話を 邪魔していますか。していないでしょう」 とお坊さん。 でも、美は嫉妬される…

京都に近い

大学時代、バイトで京都、奈良、滋賀、大阪のバスガイドをしていた。 大型バスの駐車場がある所しか回れないが、そういう有名な神社やお寺 は仕事で回ったから、もう知り尽くしている、もう十分、とその後は背 を向けていた。 しかし、観光に来た友達を連れ…

悪態をつく

人は、自分が発した言葉に引きずられて、その言葉を言わなければそ こまで感情が沸騰することはなかったかもしれないのに、その言葉を口 にしたがために過剰に激高したりすることは、ある。 「ずるい」 はそんな言葉の一つだと思い、私は好きになれない。 言…

「ずるい」に支配されない

言葉には力が宿っている、と言われる。 だが、普段、膨大に口から流れ出る言葉の一つ一つにそういう力を実 感することは少なかろう。 しかし、それまでの無害な言葉の流れの中に「ずるい」という単語が 紛れ込んだ途端、この言葉に宿る強力な負の力が放出さ…

「ずるい」って言うな

「ずるい」と言ったことのない子供は、いるだろうか。 ほかのきょうだいが親から依怙贔屓されたと感じた途端、 「おねえちゃんだけ、ずるい」 自分のケーキが小さいと思ったら、 「こっちの方が小さいやん、ずるい」 公平を求めて自己主張する。 ところが、…

「ずるい」と思うな

居酒屋でバイトしている時に学んだとかで、ガスコンロにこびりつい た油の取り方を教えてくれた人がいる。 ふんふんと聞いてから、 「で、その焼き鳥屋では」 とバイト先の話を聞こうとしたら、 「焼き鳥屋では働いていません」 えっ・・・。 どうやら、私は…

言葉の未来

話し言葉は話した尻から消える。だから、誤解が生じやすい。その点、 書き言葉なら大丈夫、と信じるとしたら、そうは問屋が卸さない。 心屋仁之助が、ブログの中で、なぜ僕のこの文章をそういう風に受け 取れるかなあ、と何度も嘆いているし、ゲッターズ飯田…

誰が「愛してる」と言ったのか

私は、小林麻央のブログを読むついでに、市川海老蔵のブログもサラ ッと見ていた。 サラッと、というのは海老蔵のブログは更新が激しいからだ。 でも、文句はない。 ブログを読むか読まないかの主導権は私にある。嫌なら読まなければ いい。あるいは、記事一…

麻央ブログのすごさ

知り合いの看護婦と話をしていて、私が小林麻央のブログを読んでい ると言ったら、私もよ、と彼女。 良くなってほしい。 二人でそう話した矢先の翌日二十二日夜、麻央が亡くなった。 もう彼女のブログは更新されない。 私は誰かのファンだったことも、麻央の…

言葉と意味

たとえば「青」と言う時、その単語から想起する色は他人も自分と同 じ色だ、と思い込んでいることはないだろうか。 でも、目の覚めるようなロイヤルブルーだったり、空色に近い明るめ の色だったり、人によって違うはず。 あるいは、そもそも誰もが同じ色を…

カーキって何色

街行く人のファッションを見て、関西のファッションがつまらなくな ったと思った。 茶色、灰色、黒、ベージュ・・・。 ババ色、どどめ色と呼ばれる仲間の色が圧倒的ではないか。 東京のファッション感覚に毒されてしまったんだろうなあ。 東京は曇りがちな日…

続・ある初老の母親と息子

仕方なく、私は白髪の老女に近づいた。 というのは、階段で遭遇した時、彼女に対して彼女の息子とおぼしき 男が一方的にまくし立てていて、階段を降りる私の背後から、 「せっかく出かけてきたのに」 というような言葉の断片が聞こえてきて、私は、母親は認…