餅つき

 都会の一角に残る田んぼや畑。そこで半農をしている相手と結婚し、
幼稚園に通う二児の母となった友達に招かれ、餅つきに行った。私と、
小学二年生の甥っ子連れの友達が外からの参加者である。
 朝八時半ぐらいには始めると聞いていたので、やっぱり農家は朝が早
いんだなあ、昼ぐらいには終わるのかなあ、と思っていたら、夕方、私
達が帰る時、まだ二、三回分、作業が残ることになった。
 杵と臼はあるそうだが、器械に餅をつかせる。大人の男手が旦那一人
なら、それが正解よね、と、半端でない米の量を見て、私は納得したも
のである。それでも、去年より量を減らしたそうな。
 作業場は、旦那が趣味で制作中の裏のテラス。餅米を蒸し、器械に移
し、つき上がり具合をチェックするのは旦那の仕事で、ゆえに旦那は一
日中そこから動けない。
 子供達は、餅を丸めるのはおもしろいし、つきたてを食べるのはもっ
と好きだが、飽きると、リビングに退散して、おやつを食べたり、遊ん
だり。
 女の私達は、餅がつき上がってからもつき上がる前も、口はいつでも
暇なので、旦那を交えて四方山話。たまにリビングに引っ込む。
 昼頃、建設会社の営業マンが顔を出した。それまで駐車場だった所に
アパートを建設中なのだが、そうするよう旦那に決断させたのが彼だそ
うで、餅を食する彼を相手に、しばし、その方面の話題になる。
 そこへ、彼に気づいた子供が出てきて、彼が抱き上げようとしたら、
上の柱に上げてあった手作りの木のブランコの角にこつんと頭をぶつけ
て、「あ、血が出てきた・・・」。
 すると、即座に旦那が植木鉢のアロエの葉を切り、おでこに擦りつけ、
「効くんやでェ」。
 奥さんも強く同意。
 この夫婦、歳がかなり離れているのだが、昔は元旦には風呂に入って
はいけなかった、など、日本の風習を知っているレベルが同程度で、ど
うしてと聞いたら、「えー。おばあちゃんが言ってた」とか「おばあち
ゃんがいつもそうしてた」。
 見て、聞いて、記憶して、次の世代に伝える。そのためには、主体が
餅つきなのかお喋りなのか判然としないながらもちゃんと餅つきである
という、こういう舞台が必要なんだろうな。
 私の父は、昔、杵と臼を買ってきて、近所の人達と一緒に餅つきをし
てくれたが、イベント路線を突っ走るそれは、ハイテンションな数時間
の楽しさであり、このゆったり時間が流れる一日仕事とは何かが違った。
 友達の甥っ子は、楽しいからもっといたい、と言っていた。