きのう夜フランスから帰国し、すぐにパソコンを立ち上げたら、ナント空
港まで送ってくれた友人からメールが来ている。
サンドイッチを頬張りつつ返事を書いた。
パリで日本行きの国際線を待つあいだに買ったサンドイッチだ。
硬いバゲットに具材が挟まれたサンドイッチは六ユーロ以上。水もいる。
万一用に両替してあった残りの現金は八ユーロぐらいなので、足が出ない
ように買おうと店を見て歩く。
最終的にここで買うと決め、ショーウインドーの中のそのサンドイッチを
買うと伝え、レジに移動したら、サンドイッチを包んで渡す際、
「もう一つサンドイッチを買っても同じ金額にします」
と言われる。
通路から少し奥まった場所にあるせいか客の入りが悪く、売れ残ったら困
るからだとか。
心そそられるが、サンドイッチ二つはいらない。
と、若い男性が近づいてきた。サンドイッチを見ている。
「日本人ですか」
フランス滞在中に初めて出会った日本人だ。
一つ分の金額で二つサンドイッチが買えるという話を伝え、折半を持ちか
け、交渉成立。
私は半額分小銭を彼に渡し、彼がクレジットカードで支払った。
実質的に半額でサンドイッチが買えたことを明細書で確認して、
「ありがたいです」
しみじみ彼が言う。
私はちょっと良いことをした気分。
だが、待合の椅子に座って青ざめた。
財布がない。小銭専用の小さな財布だ。
店に戻って聞くが、首を横に振られる。
思い出した。
フランスでは、ちょっとした隙に店員でも客の物を盗む。
ここはパリ。
私は置き引きされたんだ。
金額は日本円にして千円弱だから諦めがつく。
でも、革の財布は。
しかし、そもそもはサンドイッチが半額で買えるということで心が舞い上
がり、小銭をカウンターに広げて数えることに気が取られた私自身のせいだ。
この程度の損害で済んだことに感謝し、以後気をつけることだ。
あ。
私は、リュックにサンドイッチを詰める彼を置いて足早にその場を去った
ので、彼は、気づいても、私に渡しようがなかったのかも。
彼に財布は不要だろうが、ユーロの現金は使ってもらえる。そう思うと、
ようやく私の気持ちは晴れた。
水を買いに行き、クレジットカードで支払い、椅子に腰を下ろし、バッグ
に手を入れる。
んん・・・。
指先に触れるは、なくしたはずの財布。
もうこの件は決着した気でいたので、嬉しいより変な気分。
ただ、こういう時に自分の気持ちがどう動くか検証できたのは興味深かっ
た。