薬がない

 派遣で大学病院の事務をしている友が契約更新しないと決めた。
 忙しすぎる。
 それも、ファックスのやりとりだとか今どきあり得ぬ前近代的な仕事のや
りかたのせいだと言う。
 私が通院しているクリニックは、患者の合意があれば提携先の大学病院と
私の医療データを共有する体制にある。こちらの大学病院は進んでいるのか
なあ。
 そう言ったら、医療関係者から全力で否定された。
 日本は、個々の大学病院に自由はない。
 一方、身近なクリニックに目を転じれば、処方箋を出してもらっても、そ
こから患者の受難が始まる。
 去年の春。
 処方箋を持って薬局に行ったら、
「この薬は今切れていて、いつ入ってくるかわからないんです」
 と言われたので、
「じゃあ、在庫のあるこの薬はここで買わせてもらって、ないのは持ってい
る所を探してそこで買います」
 と言ったら、処方箋を二つに分けることはできないと言われ、ないと言わ
れた薬を持つ薬局を探して電話しまくることになった。
 どこも処方箋に書かれた量を持っていない。その中でも一番多く持ってい
る所で買うことにして、その旨クリニックに電話してもらうが、修正された
処方箋の原本は私がクリニックに取りに行かねばならず、半日が潰れた。
 一月にアレルギー症状が悪化したが、気管支系疾患の患者の多さを耳にし
ていたので、診察予約の前日、薬局に問い合わせたら、既視感。
 しかも薬の先発品も次回の入荷は不明だと言われる。
 大手薬品製造メーカーに勤めていた知人から、ジェネリック医薬品の製造
現場の品質管理のずさんさは目も当てられないと聞かされたら、先発品、と
思うも、先発品の製造は国のジェネリック市場拡大方針を受けて縮小されて
おり、不正問題発覚でジェネリック医療品が欠品しても、すぐには先発品を
増産できない。
 ジェネリックで薬価を抑えるのはよかろう。けど、研究は十年前のアメリ
カの後追い。新薬開発の力もない。それでも普通の病気の旧来の薬は普通に
買えて然るべきだろうに、そこに皺寄せが来て、大混乱。
 なのに国はジェネリック医薬品促進に躍起で、先発品の薬価を上げること
を検討しているとか。
 若い医者の医療倫理も変わってきた。
 要は糸がこんがらがっているってことですね。
 利己主義だけど、私は必要な薬が買えたらいいだけなんですが。
 そのために声を上げないだろう、日本人は声を上げない。
 訊ねれば、人々はいろいろ語ってくれる。