大型スーツケース

 アメリカではスーツケースの鍵を閉めていたら空港検査で無理矢理こじ開
けて壊される、とアメリカに住む友達から聞いた時、わかるけど、鍵を閉め
られないのは不安だと思ったら、そう思う人は多かったようで、今売られて
いるのには鍵穴が付いている。ただし、鍵を持っているのは空港職員。スー
ツケースの持ち主は三桁の暗証番号で錠をかける。
 まあ、私が行くのはフランスだから、鍵式でいいし、実際、私は古い鍵式
のを持って行く。
 ならば、機内持ち込みキャリーケースの購入を決めたあとは、その支払い
手続きに進めばいいだけだが、私は大型スーツケースについて訊ねた。
 前日にこのデパートの郊外店で相談して、見た目は綺麗でも車輪は特に経
年劣化が起こりやすいから、粉がぽろぽろ落ちないか、車輪がへたっていな
いか、ちゃんと動くか確認した方がいいと言われ、家に帰って動かして、問
題はなさそうだと思ったし、今回は、空港内ではカートがあり、空港と家の
往復は日本でもフランスでも車なので、万一壊れてもなんとかしのげる、と
判断。
 でも、「なんとかしのげる」は危なっかしい。
 それで、ここの店員にも訊ねたのだった。
 すると、家の床は平らなので試すなら外でないと、と言われる。
 じゃあ私としては、家に帰ってもう一度試す。それか、なんとかしのげる
以上の安心がほしいと思ったら、新品を買う。
 二つに一つ。
 だが、どちらとも決めかね、とりあえずJALとエールフランスのどちら
の規定にも合う最大サイズのを出してもらったら、やたら大きい。けど、そ
う見えるだけで、床に置いて開けると、床を占領する面積は旧来のスーツケ
ースより小さくなり、こういう進化も起こっているんだなあ。
 買うならこれ。
 けど、高い。
「来月から価格改定になります」
 と言われても、私の心は動かされない。
 事前に、もしかしたら買うことになるかも、と思っていたらまだしも、そ
ういう予想はゼロだったからだ。
 こういう時、私は時間を置く。
 すると、必要なのだから買うしかない、と明るい諦めで腹が括れる。ある
いは、別の方策を思い付く。
 しかし、すでに三時間あまり経っていて、買うのであれば、この流れに乗
って今、だろう。
 ということで、このスーツケースの購入も決めたので、機内持ち込みキャ
リーケースと合わせて二つ。
 散財ではない。
 衝動買いではない。
 でも、ストレスは最大。
 その場で即決と私はかくも相性が悪い。