10月に入手したレモンカナリア。名前を「ピー」と言う。関西弁で
「歯」を「ハァ」と上から下に音階を下げるのと同じ感じで「ピィ」と
発音する。
母に名前を付ける栄光を託したのだが、明確な“命名”ではないもの
の、「これはカナリヤと違う。猫や」とのたまもうた。かそけき鳴き声
が「にゃあ」と聞こえるかららしいが、いくらなんでも、それは採用で
きかねる。いつもは雌で、名前は「ピーコ」と決まっていたので、語尾
だけ変化させる雄バージョンとしてみた次第。
ところで、くちばしを開いて一本調子に短く声を発するのは、カナリ
ア本来のさえずりではない。
そう言ったら、「なんや。鳴かへんし、不細工やし、取柄ないなあ」。
不細工の根拠はくちばしが短いからということで、「雀みたいや」。
カナリアはスズメ目アトリ科に属するので、この観察眼は鋭い。
だが、私が気になるのは、腹の方からぽあぽあと短い羽根が上向きに
生えていて、それが下から上の翼にかぶさる、あり得ない容姿。店で購
入をためらったのはそのせいなのだが、「カナリアは鳴き声だ!」と譲
歩した。美声を聞かせてくれるなら、換えのきかない独特の容姿は、む
しろ私を執着させるように作用するであろう。
しかし、全然鳴かないとなると、うとましくなってくる。
もっとも、母は「鳴かない」とぼやきつつ、鳥籠の横からせっせとキ
ャベツや林檎を差し入れるし、私は私で、鳴かないならば、せめて手乗
りっぽくしようと、朝、鳥籠の掃除をするために小さい鳥籠に移す際、
手でつかまえたまま風呂場に行き、戸を閉めて、腕に乗せる訓練を開始
した。
このピー、雄のくせに、つかまえて、すぐに移し替えても、鳥籠の地
べたに這いつくばって、心臓をばくばくさせるくらい気が小さかった。
それが今では、風呂場の中で、私の腕に安心して止まり、本能を呼び
覚ますべくさえずりに似せた口笛を吹くと、小首を傾げて神妙に聞き入
る。
この口笛作戦が功を奏したのか、人間の喉仏にあたるあたりをしきり
に震わせる様子になったので、もしや、と辛抱強く待っていたら、クリ
スマスイブに初めてさえずった。
自分の美声に酔いしれるようにさえずるピーに、私も酔いしれる。
最高のクリスマスプレゼントだ。