男の生理

 2006年ワールドカップ・ドイツ大会が始まった。
 フランスにいた時、知人の夫と小学生の息子が、サッカーの時間にな
るとテレビの前に張り付くのを白けた目で見ていた私であるが、ワール
カップで、世界トップレベルの神業のごとき足さばきを見てからは、
同じ穴のむじな。かつ、あんた達なら、どれだけ稼ごうが、その金で自
滅しようが、何であろうが全部許す! という心境。
 よって、ブラジル選手が、本戦前のスイス強化試合で圧勝した夜、ナ
イトクラブで豪遊した、と新聞にすっぱ抜かれ、それでも懲りずに、ド
イツ入りして即、朝方まで飲み明かし、これまた懲りずに掻き立てられ
ても、私は、そうかい、そうかい、と微笑むだけで、オフの時間は個人
の自由と言い切ったパレイラ監督と基本的に同じスタンスである。ロナ
ウドが遊びすぎて微熱が出て練習を休んだ、というのには、さすがに
“プロ意識”という言葉を持ち出したくなったけれど。
 大人として彼らを信用しているとか、すべきだ、というようなことで
はない。男達は、仕事でギャンブル的に昂奮すると、その昂奮が容易に
収まらない生き物であると知ったからだ。男性ホルモンの一種、テスト
ステロンが過剰に分泌されるせいかもしれないそうだが、昔から“英雄
色を好む”と言われているし、横山ノックは選挙中に強制猥褻行為に及
び、犯罪者となった。
 仕事でハイテンションになるとそうなるのが男の普通だとしたら、そ
れを反社会的でない方法で鎮火させるんだったらいいんじゃないの、と
いうことなのである。
 予備校時代に市電で女学生と一緒に揉みくちゃになる毎日に困り、朝
は時間をずらして早めに行くことにしたが、帰りはどこのデパートのト
イレに駆け込めば邪魔されずに欲望を処理できるかを調べて、そうした、
と過去を告白した人の話をつい最近読み、特に淫乱でなくても、普通に
生活しているだけでも、そうなることがあるんだ、と感慨深かった。
 男って大変なのね。
 それでも、本能は紳士的に制御してもらわなくてはならない。
 だが、女達が「私が着たいんだから」と生足にミニスカートやら大き
く胸が開いた服を着るのは、男の“性(さが)”を甘く見た挑発的行為
になっていることはあるんだろうな。それで変な気を起こすのは起こす
方が悪いと言われるとしたら、男達には拷問かなあ。
 しかし、女性に向かって自分達の真実を語ることを怠っている点では、
男達に非がある。
 六月。薄着の季節の到来だ。