セーフ

 会社を辞めた知り合いと会った。失業保険をもらい始めたのだが、職
業支援制度を利用してファイナンシャルプランナーになる講座を受ける
ことが決まったらしい。結構な倍率の適性検査をクリアして選ばれたと
いうのだから、めでたいことである。本人は「単に年齢的に妥当だった
からじゃないですか〜」なんて言ったが、定年後の仕事にしようと、そ
の資格とほかの資格を取得して、実際に開業した人をテレビで見たこと
があるので、「それはないと思うよ」と私。
 そして、話の流れで、こんなことを言った。「若い人は、自分に合っ
た仕事が見つかったら頑張る、みたいなことを言うらしいけれど、そう
じゃなくて、与えられた仕事に真面目に取り組んでいるうちに、おもし
ろさが見えてくるかもしれないし、そういう姿勢を見ている人がいて、
本当に行くべき方向に引っ張ってくれることになるかもしれない。この
世で名を成した人達は、つまらない仕事でも手を抜かなかった。どんな
仕事にも同じ真剣さで取り組んで、それで、大成功したんだって」。
 半分以上、読んだり聞いたりして、私がなるほどと思ったことを口に
したまでである。
「仕事をしていると、本当は、そこまで自分がしなくても、とか、それ
は自分の仕事じゃない、というようなことを頼まれたりして、上に行く
ほど、そういうのは下に任せることになるけれど、なるべく、ここまで
が自分の仕事、と自分で線引きしない方がいい」。ものを頼みやすかっ
たり、融通を利かせてくれる人は、そうでない人より、嬉しい。結果、
慕われて、その職場で有用な人になっていく。可能な限りそういう態度
を見せてくれる事務の一人を私は思い浮かべていた。
 と、目の前の彼女が、「もっと前にそういう話を聞いていたら」と言
い出して、どきり。
 彼女は、最初に勤めた名のある会社を辞めた理由を話してくれた。一
流企業だったけど、つまらなかったそうな。自分にはもっと他に何かで
きそうな気がした。
 営業マンの補助的な仕事の場合、女の子がそう思っても仕方ないだろ
うなあ、と私は思う。だから、そんなに自虐的になることはないよ。そ
の時の判断はベストだったのよ。大切なのは、これから。
 それにしても、私が偶然閃いて話したことに素直に頷いてもらえてよ
かった。彼女は、自分の過去を批難されたと受け止めることもできたの
だから。