お化けも「右前」!?

 花火大会の日は、浴衣の女性がたくさん。
 いっときの日本風情だが、こういう時は庶民の着物感覚がわかって興
味深い。
 私は庶民じゃない、と言おうというのではない。
 母に浴衣を着せてもらった記憶や、着物を着た経験もあれば、テレビ
で民謡を踊る人達を見る機会もあり、正統なる着こなしが脳裏に焼き付
いていると、違いにはどうしても敏感になる、と言いたいだけなのだ。
 ウエストのくびれに食い込む帯の締め方のせいで、あらぬ皺が多数の
浴衣。
 下駄代わりのパンプス。
 ピアスやイヤリングは、もはや市民権を得たかのごとく。
 それらは、もし着物が今も日本人の基本であったなら、西洋文化にそ
んな風に感化されていたかも、と思わせられる現象ではあり、つまりは、
着物も時代と共に変化して当然、との気づきになる。
 それに、かように好きに遊んでも、右衿が下で、左が上にくる打ち合
わせの「右前」だけはちゃんと守られているので、安心していられる。
 もっとも、一層の着物離れで、左衿が上にくるのを「右前」と呼ぶ言
葉に混乱し、逆に着る人達が出てくる可能性は否めないのだが。
 いや、先に右身頃をからだに当てることを「右前」と呼ぶ理屈がわか
れば間違えないし、着る際、不安になって参考にするのは、言葉ではな
く映像だろうから、心配には当たるまい。
「左前」は死んだ人。
 じゃあ、お化けの白い着物はちゃんと左前なのね、と急に興味が沸い
て、調べたら、見つかった限りでは、全部、生きている人と同じ右前。
 え、なんで。
 お化けを描くのは生身の人間ゆえ、無意識に、自分達の当たり前で描
いてしまうせいだと推論してみたが、どうだろう。
 それに、実際の葬儀ではどうかというと、棺の中で対面した祖母は、
顔の周りを花で埋め尽くされ、衿の打ち合わせが本当に左前だったかど
うか、思い出したくても思い出せない。
 それほどまでに無きものとされているとは、本当に「左前」は禁忌
(きんき)であるのだなあ。
 しかし、法則は法則なので、万が一にもお化けに出くわした時は、勇
気を出して着物を左前に着せ替え直してさえあげれば、素直にあの世に
旅立ってくれる、とお化け対策を閃いた。
 花火のことを書くつもりが、なんか大いに脱線してしまったけれど。
 ま、いいか。
 なにが立秋だ、と言いたいような暑さだし。
 冷房のない我が家だし。
 もとい。冷房はあっても、自然の風で凌いでいる我が家なのでした。