小さいうちは、未体験のことがまだまだいっぱい。
個人的に英語を教えている小学生から「今度、初めて○○する」と言
う言葉を聞くたび、自ら求めなくても、わくわくすることが向こうから
訪れてくれる年代を羨ましく感じる。
誕生日が来たら「やっと二桁になる」と目を輝かせて言われると、さ
すがに、そんなことまで楽しみになるの、と呆れるのだったが。でも、
確かに、三桁の誕生日を迎えられる人の方が少ないとしたら、二桁にの
る十歳の誕生日は特別の祝祭に格上げされていいかもしれない。
家に新品のゲームがあったので、持っていった。
いつも、年末に、その年に流行ったボードゲームを用意しておき、弟
の家族が来ると、みんなで楽しむようになっていて、その延長線上で買
ったアルゴゲーム。
ところが、なぜか、これには弟が乗り気を見せず、じゃあ、一人遊び
を試してみるわ、と彼らが帰ってから説明書をめくるのだが、私の脳が
理解を拒絶する。
推理することで論理的思考能力が向上するゲームらしいが、白と黒、
それぞれ12枚のカードしか使わないならルールは簡単だろう、と侮っ
た私が甘かったのか。
だが、子供から大人まで遊べるとある。
そこで、英語のレッスンが終わってから、小学四年のその子とその下
の二年の子に渡してみたのだ。
すると、中学生の姉の英語レッスンに移って早々、二人はルールが呑
み込めたらしく、部屋の隅で真剣勝負が始まった。
UNOとどちらが面白いかと聞くと、こっちと言う。
「どこが」
十歳なりの言葉でなんとか説明しようとして、もたつき、「とにかく
面白い」。
説明書の解読で躓いた我が身を振り返って、悔しいより不安になる私。
マニュアルなどを読んでも理解が及ばず、大きくなった我が子や若い
人を頼るようになったら、もう歳、という印象があるではないか。
しかも相手は小学生。私が青ざめても当然だろう。
レッスンが終わると、待ちかねたように中学生もゲームに加わり、私
が帰ろうと立ち上がっても、普段なら、母親と一緒に私をバス停まで送
らずには納得しないはずが、全員、身体を捻るだけで、「バイバイ」。
そんなに、はまるゲームだったの。
来週行ったら、完璧にマスターした彼女達に教えてもらって、私も勝
負に混ぜてもらおう。
UNOでは大負けした私だけど。
私が初めて、人生の後輩達に教える一方だった立場にかすかな揺らぎ
を感じた記念の日。
わくわくできないところが、大人の「初めて」の宿命だなあ。