その友にビールの話をしたのは夏だったと思う。
「飲んだら、太るものなのかなあ」
彼女は「太る」と言ってから、「でも、飲むと、食べたくなるから、
それで太るのかも」と分析した。
彼女が少し太ったように見え、でも、直截にそう言えなくて、そんな
話題を持ち出したのだ。
彼女は二児の母。
よく、子供を産むと太ると聞くけれど、なぜか、私の周りにはそうい
う自己弁護を必要とする人がいない。
体型は変わる。でも、体重は変わらない。
中には、結婚前はぽっちゃりしていたのに、どんな食べても太れなく
なり、「旦那は嫌がっている。友達に、おまえが苦労をかけているんだ
ろうと言われるから」と羨ましいことを言う人までいる。
少し太った件(くだん)の友も、一人目を産んだ時は、周りが心配す
るほど体重が落ち、私と同じ百六十四センチほどの身長なのだが、七号
の服を買い揃える必要に迫られた。
それが、二人目の時はそうはならず、今になって太り始めたところを
見ると、やっぱり二十代で出産し終えるかどうかが分かれ目なんだわ、
と勝手な想像をしていたら、秋になって、実は三人目がおなかにいると
の告白。
妊娠がわかったと同時に、当然、アルコールは御法度にしたが、今は、
おなかの子が胃につかえて、積極的に食べたい気にならないとか。
そんな彼女の後ろ姿は、完璧に普通の人。体重増加はわずかに五キロ。
もう臨月だというのに。
二人目の時は、体重が増えすぎて、産む時大変だったので、その二の
舞にはならないと決意し、一人目のように、出産ダイエットまで目論ん
でいるとか。
誰にもできることではあるまい。
でも、彼女なら、きっと実現する。
そういう人を目の前にすると、独身で、体重が増えても子供を産んだ
せいにもできなければ、出産ダイエットも不可能な我が身が悔しくなっ
てきた。
ではあるけれど、ダウンのロングコートを買って、気分は上々。フー
ドをはずして、衿の形が美しく、ドレッシーな印象になるのが、ようや
く見つかったのだ。細身のシルエットばかりのブランドで、初めて買え
た十一号。
今年の流行りは二重の前立てなのだが、臨月の友がそれを着て、内側
のファスナーを締めたら----締まった!
働く主婦で、妊婦で、幼児二人の母親で、高齢の義母と同居もして。
すべてにおいて太刀打ちできない彼女に、せめて体重だけでも勝てた
らなあ。
よーし。真剣勝負は年明け早々。彼女の出産直後だな。