うんと寒くなったら、部屋の換気用にわずかに開けられた換気口から
入ってくる冷たい風に冬を実感させられることになるが、まだそこまで
行っていない今は、外から帰ってくると、家の中をほんわり温かいと感
じる。
幸せだなあ。
が、それは人間にだけに限ったことではないらしく、今日も今日とて、
風呂場には、三ミリほどの虫。
もう、名前は「割れて」いる。
チョウバエ----蝶のように見えるからと、名前は美しいが、ハエの仲
間。
露店の食べ物にたかるハエのきたならしいイメージこそないものの、
風呂場のタイルに黒いシミのようにそやつらが留まっているのは現実。
たまに飛んでも、羽音はせず、すこぶるひそやかな存在ではあるが、不
愉快なので、見つけたら、即、ペチッと指先で押さえて、昇天してもら
う。
ところが、羽化後の命はわずかに二週間ほどと聞く割りには、子供や
孫が続いて生まれてくる気配で、夏が終わっても死に絶えない。
なんで。
温かくて、汚泥(スカム)がある所に発生するという報告が、昭和四
十年代から増えてきたそうな。
我が家の場合は、間違いなく、風呂場のバスタブの下のぬめりの中だ
な。
そうとわかれば、退治あるのみ。
しかし、我が家のバスタブは、手前をパネルなるもので覆われており、
そこに側面カウンターがねじで取り付けられている。
ねじをはずすして、カウンターも壁からはずし、もし元に戻らなかっ
たらと考えると、勇気が出なくて、断念。
で、思いました。
西洋の猫足のバスタブはなんて清潔なんだろう、と。
バスタブの外側も、バスタブが置かれた床も、綺麗に掃除できる。
そういう目で見回してみると、隠すのではなく、見せておしゃれで、
当然の帰結として、本物の清潔さが持続できるようにという発想から生
まれたとは思えないものもいっぱい。
でも、たとえば、たかが埃ですら、単純に上から下に降り注ぐのでは
なく、そこまで入るか、というような所にまで入り込んで、こちらを驚
かせてくれるではないか。
もし自分で家を設計するなら、家具や棚をオリジナルで製作するなら、
と、どこまでも夢想は羽ばたきそうになるけれど、目先的にはチョウバ
エとの共存ですかね。
けさは、あろうことか、私の部屋の壁に一匹見つけた。
ペチッとやろうとして取り逃がしたのは、風呂場のタイルと違い、普
通の壁だと黒いシミになって残ることを知っていて、ふと、手に迷いが
出たのだ。
そう、きゃつらは、今や、風呂場以外にも進出し始めている。
ああっ・・・。