文通

 大学時代、フランスでは絵はがきも封筒に入れて送る、絵はがきであ
っても親書は親書、相手以外の人に読まれることをフランス人は許容し
ないのだと教授が話すのを聞いて、私は困惑した。
 深刻な話を書くのに、誰が絵はがきを選ぶだろう、と思ったのだが、
それにしても、フランス人って変に神経質なんだなあ。
 フランスで知り合った友達と文通するようになると、彼女は、毎回、
封筒に絵はがきを入れて送ってくるようになり、教授の言葉がしっかり
裏付けられることになった。
 ただ、深刻なことは絵はがきには書かれない、とみた私の思い込みに
関しては、ほうら、やっぱり、そうでしょ、と言いたくなる。私の文通
相手の彼女が、たまたま、書き言葉だと、話す時のようには話題が豊か
にならない人だったからかもしれないけれど。
 会話は、押して、返す、波。
 相手から送られてきた波に合わせた大きさの波を返すのが一番バラン
スが取れると思うと、私も彼女に合わせて軽い内容に仕上げたい。
 それでも、「あなたのこと、いつも思っているのよォ」と彼女が私に
毎回毎回書いてくれるように、私自身も何かの言葉を決まり文句のよう
に毎回書くことには、私の指が強く抵抗する。
 で、平凡な日常の中になんとか話の種を見つけ、フランス人の彼女に
理解できるよう説明を加えたりすると、絵はがきの裏全面を使ってもス
ペースが足りなくなる。なので、私からはA4のコピー用紙にパソコン
で文章を打ったのを送る。旅先で買った絵はがきを送る場合も、絵はが
きは、手紙と一緒に同封する添え物の位置づけ。
 ほどなく、彼女から「あなたからの手紙をいつも楽しみにしているの」
と返事が来る。
 近頃は私が書いた内容に彼女が意見を返してくれるようになり、会話
のキャッチボールが弾むようになってきたものの、彼女の方から話の種
を差し出してくれることは稀で、会話の主導権を委ねられた私が、周り
を見回し、心の中を覗き込み、話題を探しているうちに、一ヶ月など、
あっという間に過ぎる。
 ところが、私が手紙を送る前に、彼女から二通目が届くことがある。
 この週末こそ手紙に着手し、週明けに出そう、と意を決していたら、
土曜日に二通目のエアメールが届いてしまったりすると、暗黙の催促を
感じて、筆が重くなる。
 先日がそうだった。
 心を叱咤して、予定に遅れること数日で、任務完了。
 今、私は、しばしの解放感の中にいる。