鳥介護

 小鳥は二本足で、眠る時も突っ立ったまま。
 君たち、足が疲れることはないのかい。
 人間の足と同等に考えるからいけないのであって、死ぬまで動き続け
る肺や心臓と同じと考えればいいってことなのかなあ。
 実際、足の弱った野鳥なんて見たことないしね。
 でも、野生動物の世界はシンプルだ。
 足が弱ったら、即、自分より上位の動物の餌食にされる。
 つまり、足が少し弱った時点でもう、死への扉が開いたことになる。
 けど、飼い鳥はそうはいかない。
 もっとも、前に飼っていたカナリアは、気づかぬ間に落鳥して死んで
いたし、私が幼い頃に飼っていたカナリアがどんな風に死んだかと母に
聞くと、
「そんなん覚えてない」
 呆れて、友に話したら、
「と言うことは、やっぱり、気がついたら死んでたんちがう」
 ああ、そうか。
 落鳥死の事実は記憶から消えても、無意識は覚えていて、それで私は
落鳥で死なれるのは嫌だと思ってしまうのかも。
 今、その考えは揺らぎ始めている。
 五歳を過ぎたカナリアのピィが老衰したのだ。
 今月の五日に、母が藁の巣を入れた。
 何度もばたばた落ちる音がするし、まさしく地べたに落ちているので、
雄だけど、足がしっかり踏ん張りやすい藁の巣を入れたらいいんじゃな
いか、とやってみたらしい。
「目か足が悪いんちがう」
 目の場合は、何もできない。
 でも、足の爪が問題なら、素人ながらも爪切りに挑戦してみる勇気は
あるが、見ていると、二本の足でからだを支え切れていないのが原因み
たい。
 そこで、止まり木から落ちてもダメージがひどくならぬよう、上下に
二本ずつの止まり木の、上の二本を取り去った。
 下の二本は長い菜箸で、この先の細い部分に止まって寝ようとするが、
やはり、ほどなくバタッと落下。
 餌は百均で買ってきた陶器に入れて地べたにおいた。
 巣を限りなく地べた近くに設置すべく、ティッシュの空箱を半分ほど
の大きさにして、それで巣を支え、ベッドは、日本製のカマンベールチ
ーズのプラスチック容器の中に新聞紙を入れたのに決め、からだをつか
んで強制的にそこに入れたら、今は、夜になったら自発的にそこに入っ
てくれる。
 昼の居場所は、藁の巣。
 たまに餌を食べに降りるが、時々着地に失敗し、死ぬ間際の蝉のよう
に仰向けで空(くう)をかき、もがく。でも声をあげない。
 声をあげられないほど老いたのか。
 好きな水浴びもできなくなり、汚らしい顔になってきたし。
 私は自問する。小鳥の天寿全うは幸せなのだろうかと。