「安全神話」は悪魔の囁き

 国がフクシマ原発周辺の土地を借り上げようとしていると新聞で読み、
私は至極まっとうな政策だと受け止めた。
 放射能汚染が広がれば、もう住めない。
 悲しくても悔しくても、さっさと逃げよ。
 とは言え、一文無しでは逃げるに逃げられない。
 が、国から地代が出れば、なんとかできそう。
 本当は、人との繋がりなどに配慮するなら、町ごとどこかに移転でき
るのが一番いいのだろうけど。
 ところが、大熊町長が、除染という話ではなかったかと反撥している
とか。
 除染すれば、もう一度住める。
 私も、当事者になったら、その希望にしがみつきたくなるだろうか。
 なんにせよ、かような混乱と苦しみを住民に強いた責任者は、電力会
社におもねり、原発建設のお墨付きを与えた、いわゆる識者と呼ばれる
面々であることは間違いない。
『原子炉時限爆弾』によると、日本の電力会社は、ココに原子炉発電所
を作ると決めると、御用機関に、
「この断層は、死んでいる」
 と呟かせ、あるいは御用学者に断層を過小評価させ、その結果、建設
候補にあがった土地が取りやめになったことは一度たりともなく、たと
えば衣笠義博という重要人物は、2008年にテレビで責任を追及されると、
「自分は法律に違反していない」
 と居直ったそうな。
 東北地方の高速道路無料化の制度を悪用しているドライバーが、
「そういうことができる制度の不備が悪い」
 と悪びれないのと同じである。
 ただし、この衣笠義博、および、
原発は安全」
 と繰り返すことで金銭的な見返りもたっぷり享受したであろう元東京
大学大学院教授の斑目(まだらめ)春樹などの、たちの悪さは桁が違う。
 原発は、町の、地方の、国の存亡を左右するレベルのことなんだよ。
 だから、私は解せないのだった。
 今回は自分は無害、だったかもしれない。
 彼らが死ぬまでは、彼ら自身が被爆も被曝もしないかもしれない。
 だが、彼らには、妻もいれば、子も孫もいるであろう。
 その誰かが被災する未来を思い、良心に立ち返ることはできなかった
のか。
 子や孫も、赤の他人同様、どうでもよいのか。
 怖ろしい。
 しかし、そう考えなくては理解に苦しむ、ニホン人への背信行為。
「あ」
 私は閃いた。
「この人達は、ガン細胞なんだ!」
 ニホンという肉体を滅ぼすべく突然変異した人々。
 仲間と共に増殖し、自分達も一蓮托生になってもいいから、ニホンを
死へと導きたい病に冒されてしまった。
 阻止し、ニホンを延命する手段を、私達は、まだ持ち合わせてるのだ
ろうか。