実は、初め、私は十二日間のフランス旅行を予定していた。
が、友達のおかあさん、マダムBに、
「そんなに短いの」
と言われた。
「たった十泊じゃない」
えっ。
旅行は、移動日数を差し引いた宿泊日数で考えるのがジョーシキなの
か。
まあ確かに、どの家に何日泊めてもらうか調整するのに頭を悩まされ
るのは、日数が足りないせいと考えれば得心できる。
仕事の都合をつけて一泊増やし、十一泊十三日の旅にした。
マダムB宅には五日間お世話になる。
彼女にはそれでも短いが、
「ゼロより、ましね」
この言葉だけ聞いたら、反撥したくなるかもしれない。
けど、マダムBに悪気はない。
ムッシューLは、モンサンミシェルに連れて行ってくれた時に誰かか
ら情報を仕入れたようで、その後、
「ニホン人は一日はパリ、一日はモンサンミシェル、一日はヴァンヌ、
というフランス旅行をするらしい」
と得意げに話しまくっていた。
ヴァンヌ?
そんな中都市より古城巡りなんじゃないの、と思ったが、ムッシュー
Lが吹聴したがるポイントはそこではなくて、ニホン人はたった三泊の
フランス旅行、というところ。
小馬鹿にしているのではない。
むしろ、その反対。
フランス人の金銭感覚からいくと、それだけの長距離を高い飛行機代
を払って旅行するのなら、それに見合っただけ現地に滞在しなくては費
用対効果が悪すぎる。
滞在期間が延びれば宿泊費用が嵩むが、工面できなければ、潔くその
旅行自体を諦めるのが彼らの流儀。
ところが、ニホン人は、費用対効果など頓着せず、わずか三泊や五泊
で、ばんばんフランスを訪れる。
どれだけ金持ちなんだ!
そう言えば、別のフランス人の友達から、姉夫婦がニホンに行くので
会ってやってくれないかと頼まれた時、その姉夫婦は、それぞれに有給
休暇を取得して、一ヶ月間ニホンに滞在したのだったなあ。
私は、その時は、六ヶ月の我が子を親に預けて一ヶ月も家を空けられ
る彼らの神経の方に強く反応させられたのだが。
ちなみに、マダムDがパリとブルターニュ間のアッシー君を申し出て
くれたのも、私がパリに到着する日しか彼女の家に泊まれないから。
「車の中で喋りましょうよ」
あなたがブルターニュの友達の所にいるあいだは邪魔しない。
私が一人でも心配しないで。
・・・。
今でも思う。
なんで私はマダムDの言葉を鵜呑みにしたんだろう。
おかげで、もう、今までと同じ気持ちで彼女と接することはできない
と思う。
悲しい。