万博公園の日本庭園の中で、私と友人はT字路にさしかかった。
正面から初老の外人カップル。
このままではぶつかりそうだが、私達の方が一足先にTの字の二画目
の縦棒の方向に右折れ。
その際、男性の声が聞こえたので、道でも聞かれたかと振り返るも、
なーんだ、連れの女性に話しかけたのね。
彼らは私達と同じ方向に歩を進め、私達は一列に並んだ。
黙っているのも気詰まりで、私の真横を歩く女性に、
「長く滞在されているんですか」
と英語で話しかけた。
そして差し障りのない会話を二言三言交わしていたら、
「今度、東京に行くんですが、近場にお勧めの観光地はありますか。教
えてください。あそこのベンチに座りましょう」
と言われ、別段急ぐこともないので快諾。
英語ができない友人のために通訳もせず勝手に承諾し、当然のように
ベンチに座ったので、友人は訳がわからなかったみたいだけど。
鎌倉には行ったと言うので、
「だったら」
ほら、あの、外国人に一番人気のキンキラのお寺・・・。
思い出せない。
友人に答えをもらおうと説明しようとしても、これ以上の言葉は出な
くて、友人はお手上げ。
私は、目の前を通りかかった一人歩きの男性に、唐突に、
「すみません」
と声をかけた。
「関東にある、外国人客に有名な金ぴかのお寺ってどこでしたっけ」
問う相手を変えれば、こんな漠たる説明でも正しい答えを閃いてくれ
る人に出くわせるかも、と思ったのかなあ。
だが、相手が口を開く前に、
「あ、日光!」
喉まで出かかっていた言葉が、私の口を突いて出たのであった。
箱根も候補に挙げた。
ところが、
「そこは何が有名なんですか」
と聞かれると、
「・・・」
「じゃあ、あなたがこれまでに訪れた観光地はどこなの」
と聞かれたら、そりゃあ、やっぱり関西以西です。
そして、観光客の一番人気は、だんとつで京都。
「もう行かれましたよね」
確認すると、一ヶ月も滞在しているのに、まだ行っていないと言う。
「えぇーっ」
京都と金閣寺ははずせないでしょう、と力を込めてアドバイス。
すると、
「ニューヨークから末娘が到着したら、行くことにします。もしよかっ
たら、一日、私達に付き合ってくれませんか」
「いいですよ」
日を決め、通りすがりの男性にカメラを渡して私達四人の写真を撮っ
てもらい、
「さようなら」
と別れて、友人と二人に戻ってから、私は、
「あ〜あ。引き受けなきゃよかった」
暗く落ち込んだ。
まったく、なんで、ほいほい安請け合いしてしまったんだろう。