京都観光の日が来た。
ひょんなことで知り合ったアメリカ国籍の女性が、一ヶ月も滞在しな
がら京都に行っていないと言うので、
「やっぱり金閣寺は見ておいた方が」
と言ったら、一緒に行くことになったのだ。
その日までに、頼まれもしないのに、ほかのお勧め観光スポットなど
をメールで送ったのは、「全部おまかせ」と言っていても、説明を聞く
と、行きたい所を明確に意思表示できる人が多かったりするからだ。
「どこへ行くかは電車の中で話して決めましょう」
と彼女から返事。
が、当日の朝、最新メールが届いている。
「朝、一度職場に出なくちゃいけないし、あなたに頼みたいこともある
ので、宿舎に来てくれませんか」
折しも夜明け前から激しい雨。
こんな中、金閣寺に行ってもなあ・・・と逡巡していたところで、こ
の分だと京都行きは消滅だな。
別に京都に行くのは必須じゃない。満足できる一日のお手伝いができ
たら大成功なのだから。
アスファルトに跳ね返る雨と格闘しつつ宿舎に着くと、寝起きらしい
二十二歳の娘は、私と初対面の挨拶のあと、ナッツや乾燥フルーツをつ
まみ始めた。
私は、朝食を食べたか、コレは食べるか、アレは食べるかと聞かれる
が、インスタントのコーヒーだけ入れてもらって、ふーん、こういうの
がこの家の朝食なんだと観察。
と、
「成田から帰国する前に、湯河原に行きたい」
一泊だから、ちょっとぐらい高くても本格的な日本旅館。
「私達の代わりに予約してほしいの」
私はそのために呼ばれたのね。
母親はノートパソコン、娘はipadで旅館を検索し始めた。
そういう手段があるのなら、そのまま画面上で予約すればいいのに。
その前に、母と娘の心理バトルが勃発した。
母親が旅館を選ぶと、娘は娘で、口コミ情報をもとに別の旅館を、
「ココがよさそう」
と見せる。
譲らぬ両者。
が、母親が娘の意見を採択した。
初婚でできた四人目の子供で、普段、娘はカリフォルニア、自分はサ
ンディエゴと遠く離れて暮らしている。久々に会えたのだから、自分が
折れて済むのならと考えたみたい。
ところが、娘は単純に自分の情報の方がまさっていたせいだと受け取
ったようで、親とは切ないものですねえ。
ここから私の出番だ。
宿に電話。
彼女達は肉を食べない。魚はなんでも食べるが、貝やイカや蛸は駄目。
そういう料理にしてもらえますか。
通訳しながら、私は思った。
なんか面倒くさいベジタリアンだな。
その程度にしか感じられなかった私は、世界を知らなすぎた。