観光より旅行代理店

 アメリカ人と京都観光に行く朝、待ち合わせ場所を変更して宿舎に来
てほしいというメールを受け取り、それを読んだ時点で、京都に行けな
くなる予感がして、私は返信メールに海遊館のURLを載せておいた。
 彼女の宿舎から電話で湯河原温泉日本旅館を予約し終わると、もう
昼前。
 雨は止んでいるが、今から京都は遅いだろう。
海遊館はどうですか」
「私は海の近くに住んでいて、興味はないの。でも、娘が行きたいって
言うから、行きましょう」
 しぶしぶだった彼女。
 が、一歩中に入った途端、
「うわあ。何、ここ。すごい。来てよかったわ!」
 私達の入館後すぐに「夜の海」照明の時間となり、幻想的な雰囲気が
一層彼女を魅了したのかも。
 しかし、なぜ、そんな時刻の到着になったのか。
 まずはレストランで腹ごしらえした。
 野村證券のATMで現金を引き出したい、と言われたのには最短距離
で要望に応えた。
 が、新幹線の切符を買いたいと言われ、旅行代理店に行ったのがまず
かった。
 実際には新幹線で東京まで行かずに途中下車して湯河原に行く。でも、
招聘元の職場に提出する領収書は、湯河原に行ったことが発覚しないも
のを発行してほしい。
 誰がどう考えても、一旦東京都内まで新幹線で行き、自費で湯河原ま
で戻るしかない。
 じゃあ、どこで何に乗り継いだら、何時に現地に到着するのか。
 あ、そうそう。湯河原に行く前日、京都に泊まりたい。大量の荷物を
持っての移動になるので、駅からすぐのビジネスホテルをお願い。
 担当者から二、三紹介された中から一つ選んだ。
 と、
「あ、こういうのもありました」
 担当者がさらに安いのを紹介してくれようとしたのは、こちらの懐事
情を察した親切だったのだろうが、すでに三時を回っていることに苛立
ってきたアメリカ人は、
「決めたのでいいのよ」
 突然、お金に頓着しない富豪みたいな物言いに。
 そして、
「この人、新米だから仕事が遅いんだわ」
 一度、何かを先輩らしき人に相談するのを、私達の目の前でしたため
に、そんな結論に結びつけられて、担当者も気の毒なものである。私達
はフランス語で喋っていたので、話の中身は気取られなかっただろうけ
ど。
 アメリカ人は成田のビジネスホテルも予約したかったらしいが、
「それは自分でなんとかするわ」
 と諦め、残すは精算のみ。
 その段階でも、娘はユーレイルパスが使えるから交通費の計算は別々
で・・・など一筋縄ではいかない。
 でも、私は、そんなことより夕食を思って憂鬱だった。