実は、マンションの鍵の電池交換は、
「自分でできますよ」
と鍵のリモコンカバー交換の業者が、カバーの蓋を開けて、中にどん
な風に電池が収まっているかまで見せてくれたので、私は教わった通り
にしたつもりだったが、最初にマンションの扉の前でリモコンボタンを
押した時、扉は開かなかった。
そうなりそうな気がしていたのよねえ。
って、
「悪いことを予想すると、現実になる」
を地でいったってことかしらん。
やっぱり、思い描くなら、そうなったら嬉しい事のみを心に思い描く
べきだった。
鍵は、新品の電池を持って店に行くしかあるまい。
その前に、もう一回だけ、一からやり直してみよう。
鍵の表と裏を反対に入れたのかもしれないし。
カバーの内部は、正しく鍵を設置しないと蓋が閉まらないようにでき
ていた・・・。
じゃあ、何がいけなかったの。
わからないから、きっとまた同じ結果になると悲しく覚悟して、マン
ションの外に出て、リモコンボタンを押すと、扉が開く。
え・・・。
機械類に愚弄されるタチの私は、最初の失敗でナーバスになっていて、
喜びよりも、へたり込むような気分。
それでも、自分でできたという達成感がじわじわ心に満ちてきた。
「達成感がないの」
と言ったのは専業主婦の友だ。
私は、日本体育大学の女子の集団行動のドキュメンタリー番組を思い
出した。
女子大生達は厳しいレッスンに耐え、緊張の晴れ舞台が終了すると、
感極まって泣いて笑って、からだ中から幸せがほとばしっていた。
その姿に達成感の仕組みが見えた。
困難や葛藤や落胆を乗り越えて何かをやり遂げた時、人は不可避的に
達成感に包まれる。
たかが鍵の電池交換であっても、そうなる。
秘訣は行動。
指をくわえて人の達成感を見ているだけでは、すね者になるだけ。
あ。
友は、やり遂げる前に挫折しそうで、そして挫折は心に痛いから、そ
ういう惨めな自分と対峙しなくていいよう、チャレンジとなるあらゆる
事態に背を向けているのではないか。
家では、わからないことは旦那頼み。
私と出かける時は、私がツアーガイドのごとく一日の下調べをしてゆ
き、彼女はそれに乗っかるのみ。
好きでやっているので、私自身に不満はないし、たとえ下調べが必要
ないまま終わっても、気の済むまで下準備したという達成感は消えない。
一方、友はラクして得しているように見えても、達成感とは無縁。
そう言えば、彼女から、
「菊さんは、きっと私より二倍楽しめているよね」
と言われたっけ。