買う動機は、店員

 マンションの住民が、
「鍵のカバーは割れていませんか」
 と声をかけてくれたおかげで、業者の人が鍵のリモコンカバーの出張
修理に来ているとわかり、電池交換を相談したら、それは対象外だった
ようで、
「自分でできますよ」
 手順を説明してくれるも、それで理解できる″玉″ではないのであっ
た、私は。
 すると、カバーを修理し終えたばかりの誰かの鍵をドライバーで開け、
電池が見えるところまで実演してくれて、私にもできそうな気がしてき
た。
 神様は、人まかせにするのではなく、私が自分でやる勇気と自信を持
てるよう、この業者に出会わせてくれたのであったか。
 駅前の、軒先まであふれ出ている金物類がすべて埃まみれの個人商店
に足を踏み入れた。
 ドライバーのセットを出してきてくれたが、私としては、その中に私
が求めるドライバーがあればいいのです。
「だったら、一本だけ買った方がいいですね」
 物を移動させて姿を現わした棚の一番下の引き出しから一本売りのを
出してきて、
「これだと思うけど、念のため」
 万が一サイズが合わないドライバーだった場合に売り物に戻せるよう、
プラスチックと紙を留め合わせている大型ホッチキスを慎重にはずし、
中からドライバーを取り出すと、鍵のねじに当てる。
「これですね」
 受け取って、ドライバーを回してみる。
 ねじが動かない。
「あぁ、それ以上は」
 店主の声が震えた。
「でも、回らないんですけど」
「それを無理に回して、ドライバーに傷でもいったら、あなたも困るで
しょう」
 ・・・。
 私は、ねじがちゃんと取れそうなら、このドライバーを買う。
 もしねじが動かなければ買いたくないが、もはや売り物にならぬと言
われれば、試させてもらったのだから、快く買い取るだろう。
 けど、わなわな怯えるような態度で私を止めにかかる店主の対応がい
やな感じだったので、そそくさと退出。
 大型スーパーで、ないだろうと思いつつ訊ねると、超精密ドライバー
のセットが売られているし、その中に私の求めるサイズのもある。
 ドライバーのサイズは、個人商店を出る前に店主に再確認して、しっ
かり記憶しておいたのだ。
 二百四十八円。
 店主の店で買っていたら一本で三百円強だったことを思うと、安くつ
いたし、気分はいいし、ああ、幸せ。
 店員から商品情報だけ仕入れて、ネットで安く買うのはルール違反。
 そんな感じの展開になってしまったが、今回は店主の態度のせい、と
言ったら許されるかな。
 買い物は、気持ちよくしたいもんね。