「呼ぶより、そしれ」
って本当だなあ、と苦笑させられた。
二ヶ月ぶりにフランスのマダムBとSkypeで話し、
「ところで、マダムDからメールはあった」
「いいえ」
互いにそう答え合ってSkypeを終了した一時間後に、噂のマダムDか
らメールが届いたのだ。
マダムDは去年の十二月に彼女の四駆でモロッコに旅立ち、インター
ネット環境が整った地方にようやく着いた、と送ってきてくれたメール
の中で帰国予定は四月二十日と告げていた。
が、五月に入っても音沙汰なし。
そうなると、
「彼女が私に送ったメールが迷子になっているのかも」
「長い旅行のあとで体調を崩して、彼女は入院しているのかも」
などと想像して、やきもきし出すのが私の常だったが、今回は、
「そう言えば、まだメールが来ないなあ」
と、たまに心穏やかに思うだけで済んだ。
相手はマダムDなので、どんな可能性よりも、長期間家を空けている
あいだにパソコンやインターネット環境、あるいは家まわりのことで面
倒が生じ、メールどころではないという推察が正解だろうと確信できた
からだ。
果たして、そうだったみたい。
しかし、そこまで相手の行動心理が読めない方が普通で、そういう場
合、私の想像は悪い方向へと、とめどなく突き進むのだった。
やがて、相手から状況説明を聞ける時が来る。
私の暗い予想は笑いたくなるほど的はずれだったと知る。
「どれだけ私が心配したと思っているのよ」
心配は一転、怒りのオーラとなっての私の全身からほとばしる。
あなたのせいで不安に苛まれていたのだから、そのぐらい当然よね。
けど、怒りを発散すると、その後の人間関係に支障をきたすと思うと、
笑顔で怒りをねじ伏せることになり、出口のない怒りは心の中で猛り狂
い、私はへとへと。
だって、不安から解放されたと思ったら、次は怒りと、激しい二つの
感情にもみくちゃにされるのだから。
一方、その元凶の相手はと言うと、罪悪感もなく、あっけらかん。
私の独り相撲かぁ。
あ〜、アホくさ。
本気で嫌気がさした時、私は抜け出す第一歩を踏み出せたのだと思う。
「反応するだけなら、機械仕掛けのロボットと同じ」
とは、もし、その反応が自分自身にとって不幸な場合、反応を導き出
すシステムに何か不具合があるのかもしれませんよ、と気づかせてくれ
るメッセージになるのだ。
私は、私自身がおどろおどろしい想像をし始めた時に、なぜ、私の心
はそう動きたがるのかを考えた。
そのうちに、不具合の理由を探し当てた。
「恐怖」だ。