保冷バッグ

 数週間前に、デパートで通りがかりに見かけた保冷バック。
 綺麗な桜色に惹きつけられた。
 縦横が正方形で、底は幅七センチほど。小ぶりのバッグである。色も
形もこれしかないけど、色がとっても素敵なので、これでいいか、と買
いそうになる。
 が、一応、店員に確かめたら、
「いろいろ出揃うのはもう少し先ですね」
 そして、
「ファスナーで締める方が保冷効果はいいです」
 これはマジックテープだ。それに、この小ささだとトレー入りの肉や
魚は絶対入らないだろう。そういう二次利用もできたら嬉しいしなあ。
 冷静に考えて、諦めた。
 時が経ち、先日行ったら、品揃えが充実している。
 私は、小さいけれどファスナー締め、上に広い台形で、底のマチが広
いバッグを選んだ。これなら、無理をしたら肉や魚のトレーを詰められ
そうだ。使わない時は底のマチ部分を折り畳めるのもいい。もちろん、
桜色のに付いていたのと同じタッグ付き。そのタッグが付いた保冷バッ
グは、インターネット上で保冷効果の測定結果が公開されているのであ
る。
 実際に買って使ったら、トレーも入るし、保冷剤を入れると、六時間
ぐらい経っても、中に手を入れるとひんやり。
 以前、スーパーマーケットで銀色のぺちゃんこバッグを買ったら、百
均で買うより良質だろうと期待したのに、効き目は感じられないし、開
けづらいフタに手こずって、数回で潰してしまった苦い記憶がある。
「安物買いの銭失い」にならなかった今回を喜ぶ。
 ところで、色だ。
 黄、赤、青など派手な蛍光色ばかりの中から選んだのは、私には驚き
の「黒」。
 大人になったら黒も制覇できねば、と何度考えたことだろう。でも、
肌に当てると、肌の色がくすむ。
 淡いラベンダー色は、どの店員からも「似合う」と言われ、黒のトッ
プスもコートも持っていない私。
 保冷バッグは日傘とは違うけれど、紫外線カット率の高い黒にしよう
かなあ。
 それに、そうでなくても服がカリブ海風の賑やかさなのに、バッグま
で奇抜な色だとまとまらない気がする。
 黒にして大正解だった。
 視界に入ると、私らしくないと感じて落ち着かないけれど。
 それにしても、なぜ、私は黒がダメなのか。
 ようやく解明できる日が来た。
 それは、なぜ私は黄色が似合うのか、という答えと呼応する。
 黄色に関しては、黒とは反対に、この色が似合ったらまずい、とずっ
と思っていた。
 中途半端な情報を元にした、勝手な思い込み。
 そのせいで、かくも長き遠回りをすることになったとは。