本物は、依存を嫌う

 知り合いに、主に電話で心理カウンセリングをしている人がいる。
 ひっきりなしに電話がかかってきて繁盛しているようだが、たとえば、
「大丈夫だから、とりあえずは大きく深呼吸しなさい」
 などと相談者に言うそうで、常に「〜しなさい」口調の模様。
 命令口調で成り立つ関係とは、先生と生徒のようなものである。
 もうどうしたらいいかわからない、助けて、と無防備な心を差し出す
相手に、私の言うとおりにすればいいのよという態度に出るのは、私は
嫌だなあ。相手の心を支配する一歩を踏み出すことになるから。
 正しく判断できるのは私。いつでも私を頼りなさい。
 それが収入に結びつく。
 ということは、さっさと自分から卒業されたら困るから、本当の解決
に導かないのではないかと勘ぐりたくなる。
 もちろん、散財するからホステスやキャバクラ嬢がちやほやしてくれ
るとわかっていて通い詰める人もいるから、このカウンセリング手法が
有効な人はいるだろう。
 でも、誰かに判断力を丸投げするのは危険だと身構える私のような人
もいるはず。
 依存を拒否するのだから、主体的に行きたいわけだ。
 しかし、そのためには、自分の心と真っ正面から取り組む勇気がいる
らしい。
 怖い。
 仏教は、自分の心の動きを客観的に観察し、しっかり操縦することで、
この世を極楽にできるんですよ、と説く。
 心屋仁之助の言葉の中にも、これは仏教の教えだな、というものが結
構ある。
 ただ、仏教やスピリチュアルの痕跡が見つかるとしても、彼独自の発
想で新たな手法となったから、これほどまでに人々を惹きつけるのだろ
う。
 彼も、さすがに資本主義の枠組みからはみ出ることはできないが、心
屋流の最高のカウンセラーは自分だ、として権力を集中させる方向には
向かわなかった。
 相談者に対しては、嫌がられても、本当の問題点を暴いて、突きつけ
る。それが相談者を暗闇から抜け出させる最短かつ最善の策だと確信す
るから。
 心屋の認定証がもらえるコースの受講者はかなり過激な過去を持つ人
達が優先的に選ばれているようだが、そういう人の方がカウンセリング
効果がより衝撃的に実感できるので、彼らがカウンセラーになった時に、
実体験をもとに心屋流の真髄を惜しみなく広めてくれるだろうと計算し
ているとすると、そこは怜悧なビジネスマンで、にんまりさせられるの
だが。
 何にせよ、心の問題は自分で解決できる、と一人でも多くの人に気づ
いてもらおうとする彼の熱意は希有で、ゆえに尊敬する。