進化が不便になる時

 部屋の電灯の点灯管(グロー球)が切れたので、脚立に乗って蓋をは
ずそうとするが、蓋は左に回るのに、カバッとはずれるという次の展開
にならない。
 脚立に乗って作業すること自体、危なっかしい事だから、歳を取って
こういう事態に直面したら困るだろうなあ。グロー球や蛍光灯が丸見え
の、昭和時代の照明器具の方がずっと優秀に思えてきた。
 無駄に十分ほど格闘して、諦め、メーカーの相談室に電話。言われた
方法を試したらなんとかはずせたものの、気持ちは沈む。
 台所と風呂場の照明器具は作り付けで、天井と面一(つらいち)なの
がさらにお洒落だが、やっぱり電球が切れるのが怖い。
 LEDの照明器具は、使い捨てと知って、買い換える気が失せたし。
 台所のコンロも、私は、火が目で見えないIHは嫌。
 が、ガスコンロ礼賛派とも言えない。
 先日、友をおとなう際、イタリア製のエスプレッソメーカーILSAとコ
ーヒーの粉を持参した。
 ところが、ガスコンロにのせると、火口(ほぐち)の真ん中の安全セ
ンサーに邪魔されて、独り立ちしてくれない。オーブントースターの網
を置けばいいんじゃないと言われて、一瞬試したが、網が焦げるだけに
なりそうな不安を覚えて、やめた。
 あとで、網を置くと高温になりすぎ、安全センサーが消火して網が黒
こげになる事はないとわかったものの、暗澹たる気分。
 我が家のコンロは、安全センサー付きの火口はまだ一つきりなのでエ
スプレッソを作れるけれど、コンロを買い換えたら飲めなくなるってこ
とだから。
 それに焼き魚。
 我が家では、魚焼きグリルの出番はない。
 匂いが部屋に充満するのが嫌なら仕方ないが、そうでないなら、火加
減・焼き具合を目で確認して焼くのが一番簡単かつ確実。なんで、わざ
わざ小難しい調理器具で面倒なことにする必要があろう。
 まあ、よい。
 安全のための進化と言うのなら、うちが買い換える頃までには、コン
ロの上でお餅や魚を焼いても安全な、さらなる進化版を開発してくれる
だろうから。
 でないと、進歩とは、どこかの時点から複雑怪奇で不便で、大局的に
は退化、ということになってしまう。
 母が、寝室の新しい小型テレビを嘆く。
 昔のだと、リモコンのタイマーボタンを押すだけで、三十分、一時間
・・・と今から何分後にテレビが切れてほしいかを三十分刻みで設定で
きた。それが、最新のは、その設定画面に辿り着くまでに手間取りすぎ
て、母はお手上げ。
 分刻みで設定できたところで、価値はないのだ。