会うって大切

 今回離婚を前提に別居を実行しかけた友とは別に、過去にも「もう離
婚する」と叫んだ友がいる。
 彼女も遠方に住んでいるので、電話で彼女の言い分を延々聞かされる
状況が続いていたが、生きる世界が狭いと重箱の隅を突くようなことで
自分の思いどおりに行かないという不満を募らせるものなんだなあ、と
感じさせられていた。
 文句を言うんだったら、行動すればいいのに。その場から動かず、文
句を言うだけなら、何のかんの言ってもその状況が幸せってことじゃな
いの。
 彼女は、脈絡なく、突発的に、
「もう離婚する」
 と言うので、私は、
「別にいいけど、あしたから路頭に迷うよ」
 と、つれなく言い放つことができた。
「そうなってもいい」
 案の定、感情に走った答えが返ってくる。
 じゃあ、やってみたら、と私はますます冷ややかな反応になる。友の
言い分を鵜呑みして同情するような情緒的な人間ではないのだ、私は。
 一方、離婚を決意して実家に戻ったものの、一週間と経たずに家族の
元に帰った今回の友は、間欠的にパート勤めをしているだけだから、彼
女も離婚、即、経済的に問題を生じる。でも、彼女に対しては、私は、
彼女の言い分に寄り添う態度を取り続けた。
 彼女は医者に睡眠薬を処方してもらうほどになっていた。その事実が
私を手加減させたのだ。
 睡眠薬と聞いて、彼女に、心の持ち方や考え方を変えられたら、とい
うようなことを仄めかした。
 あっさり聞き流された。
 すると、彼女も遠方に住んでいて、直接会って話せないので、私は諦
めた。
 同情を求めて私に打ち明けてきているであろう友に、安易な同情では
なく、こういうことを言ったら嫌われるかも、と思うことを私は言いた
い。友にどう受け止められるか、不安だ。春先の薄い氷の上をこわごわ
歩くような気持ち。でも、それで嫌われるならそれでもいい、と腹を括
り、思っていることを伝える。そうしたい相手だから。それが私の誠実。
 うわべの関係なら、うわべの話しかしないから絶交になるリスクは永
遠に訪れない。いいなあ。
 ただ、嫌われて袂を分かつことになるとしても、会って話してそうな
るのでないと、嫌。
 同じように二時間話すとしても、電話と、実際に会って顔を見て話す
のは全然違うのだ。
 結局、今回、友の人間的傲慢さを暴いたのは、友が実家に帰る直前に
会った親戚のおばさんだった。面と向かって話すから、おばさんは友の
反応を見て言葉を選べたし、友は逃げ出さなかったのだと思う。