本をプレゼントするフランス人達

 フランス人の男友達から国際電話がかかってきた。出張先のパリから
だ。東京在住で、東京からは滅多に電話をして来ないのに、なぜにパリ
から、という疑問は脇に置いて、しばしの会話のあと、何かほしい土産
はあるかと聞かれたので、随分前に彼からエルメスの〈カレーシュ〉と
いうオード・トワレをもらったことを思い出した。
 その深みのある大人の香りが好きで、もうとっくに匂いが変質しても
当然なぐらい月日は経っているが、残り少ないのを、時折、大切に使っ
ている。
「高くてもいい」
 駄目と言わないので、オード・トワレと答えた。
 帰国した彼から届いた荷物を開けると、オード・トワレは、私が好き
な小さくて固い砂糖菓子とヌガーに化けていた。
 まあ、よい。
 ほかにもApple TVやAppleのマウス、まがいの鎌倉彫調の箱などが出
てくる。荷物を一番重くしていたのは『フランスのぶどう畑を訊ねて』
という写真入りの大きな専門書だった。
 そう言えば、二、三年前、別のフランス人から『フランスの日常生活
二千年の変遷』という、これまた絵と写真と解説がぎっしりの分厚い本
がいきなり送られてきた。家の整理をしていて、私に送ってあげたい、
と閃いてくれたそうな。
 この手の本をもらった一番最初は、フランス人の友人のお姉さん夫婦
が来日した時だ。奈良観光に付き合ってあげたら、お礼に『空から見る
フランス』という、やはり写真と解説がたっぷりの大きくて重い本をく
れた。これは書店で買って持ってきてくれた新品だったが、プレゼント
の包装もなく剥き出し。しかし、そのことよりも、一ヶ月も日本に滞在
するのなら荷物が多いだろうに、土産にこういうのを選ぶんだ、という
ことの方に感心させられた。
 彼らの、自国フランスを自慢したいという愛国心がこの手の本をプレ
ゼントに選ばせるのだろうか。
 だが、これらの本も、読者の大半はフランス人のはず。
 フランス人は、こういう本をちゃんと隅から隅まで読むのかなあ。そ
れとも、ぱらぱらっとめくって気が惹かれた所を少し読み、時を置いて
気が向いたらまた少し読む、みたいな感じなのか。だって、あまりに内
容が専門的だ。
 けど、なんで私はこういう本をプレゼントされる運命にあるのだろう。
 ロマンチックからほど遠い。
 が、今回はDVDも入っていた。
 本同様ロマンチックとは言えないけれど、その映画は深く私の心に響
いた。
 有名なフランスの小説を映画化したジェラール・ドパルデュー主演の
映画、二作品である。