カメムシ

 今年の蝉は、もう終わったのだろうか。
 シャーシャーという鳴き声に変わったら夏の終わりは間近だが、静けさ
が戻っても、不意にシャーと聞こえることがあるから、何日か待たないと
見定められない。
 始まりの日はわかりやすい。
 今年は七月九日だった。
 その二週間後、洗濯物を取り入れたら、蝉が一緒についてきた。
 騒がしく飛び回る。
 勝手に侵入してきて、という思いは呑み込み、捕まえて逃がしてやろう
とするが、羽を掴むと指の中で生命力が力強く弾け、つい手が離れる。
 蝉取りの経験が役に立っていない。
 我が家では、昔、何度かカナリアを飼っていた。
 何年か前に近くの店で見かけると、懐かしくて、買った。
 それが死ぬと幼鳥を飼い、亡くなると、また飼った。
 幼鳥を飼い始めた頃、籠の中の青菜を入れ替えようとしたら、カナリア
が腕の横をすり抜けた。
 ぴゅーっと飛ぶ。
 若いと体が軽いんだなあ。
 ソファーに留まったので捕まえようとするが、ぴょんぴょん跳ねて逃げ
られる。
 体の上から押さえ込もうとするけれど、指に力が入りすぎたらいけない
と思うと、動きが中途半端になるのだ。
 諦めて籠まで戻り、腕を木の枝のように突き出したら、カナリアがそれ
をめがけて飛翔を開始。
 やったね。
 が、腕をおろした。
 体の中から二本の足を出して着陸態勢に入る鳥を真っ正面から見たこと
がなく、襲われる、と怯えたのだ。
 カナリアはそのまま飛び続け、どこに行った。
 普段は美声で鳴き続けるのに、ピィとも言わない。
 探しに探して風呂場を覗いたら、風呂場用の物干しに涼しげな顔で留ま
っている。
 テーブルの下や床の上を探し回っていたのは、まったく的外れだったの
か。鳥は下に向かわず、空に向かうんだ。
 で、カメムシである。
 外干しの白いシーツを取りこもうとしたら、三センチほどの五角形の黒
い虫。
 シーツを揺らして振り払った。
 ところが、気がついたら、私の右腕の内側にそいつがいる。
 また振り払ったが、そいつが留まっていた箇所と、腕を折り曲げたら虫
の背中に当たる部分が二センチほど赤くかぶれていた。そいつに気づく前
に、私は腕を折り曲げていたのだろう。
 その跡はまだうっすら残っている。
 しかし、驚愕は昨日だ。
 カーテンの下に何やら黒き物体。
 近づいたら、そやつが昇天して腹を上にして転がっている。
 一ヶ月以上どこに潜んでいたんだ・・・。
 わからないから、不安で恐怖で。
 誰か、教えて。