セール品なのに

 去年の十二月にアニーと電話で話した際、いつフランスに来るのかと問わ
れ、
「来年か再来年ぐらいには」
 と答えたのは、成り行きで適当に答えただけだった。
 でも、バッグを探し始めた。
 たすき掛けにする革のバッグ。
 以前は持っていたが、革の良きくたびれ具合を通り越して寿命が来たよう
に見え、処分した。
 こういうデザインは定番、いつでも見つかる、と思っていたら、ようやく
見つかったのは去年の秋。購入は保留にしたけれど、そのうちフランスに行
く可能性があるなら、それを買っておきたい。
 しかし、一点のみの入荷で、売れて、もうない、と言われ、逃した魚は大
きい。
 しょげる私に、
「取り寄せます」
 と店員。
 ただ、もうセールが始まっていて、セール品は絶対に買うという前提がな
いと他店から取り寄せてもらえない。
 私は見てからでないと決められない。
「キャンセルしてもいいです」
 えっ、本当ですか。
 買う気満満で見に行った。
 再び、決めかねる。
 正確な長方形ではなく、上部が若干幅広で台形のような形になっているせ
いかもと言われると、なるほど。
 ノートパソコンが入る大きさが気に入っていたが、普通のバッグとして使
うのなら、その大きさ重さは私の手に余る気がして買う踏ん切りが付かなか
ったのだとわかった。
 これより小ぶりのバッグを見せられる。
 前回も勧められたが、その時は、まごうことなき正方形というだけの素っ
気さを、あまりにデザイン性がない、とけんもほろろにけなした私。
 ところが、改めて鏡で見てみるとこの方が良さそうに見えてきて、時が変
われば心が変わり、ああ、信用できぬは我が心なり。
 けど、それを言うならこの店員もそうで、前回私が一蹴した時は、頷き、
私に同意してくれたのに、今回は私に合うと言う。
 私の揺れる心を察知したせいだ、客が白と言えば黒でも白と言う職業だも
の、と意地悪な見方もできるけれど、
「前の時は、私に言われ負けしたんですね」
 だって、この店員がキャンセル可で取り寄せてくれたおかげで、私にとっ
ての正解を選ぶことができたのだ。感謝だ。
 次は機内持ち込み用のキャリーケース。
 そのコーナーで店員の説明を聞き、セール価格になったコレ、と決めるも、
赤の方が可愛いと互いの意見が一致。すると、キャンセル可で赤色のを取り
寄せてくれることになり、既視感である。
 ところが、別のキャリーケースをほかの店で買うという結末になった。