とんど祭り

 きのう、うちの地区で「とんど祭り」があった。毎年行っていたのに、
今年は不参加。ショックで寝込んだからではない。が、ささやかにショ
ックだったことは事実だ。
 テレビで発音されたのを聞いて耳を疑い、すぐさまチラシで確認した
ら、確かに「とんど」と、でかでか書かれている。
 田んぼのある地方では、小正月になると”とんど”が立ち、これを燃
やしたことが祭りの名の由来らしいが、都会人の私は「火をどーんと派
手に燃やすから」だろうと解釈し、印刷された文字も、目が勝手に「ど
んと」と読み替えて、今日まで生きてきたのである。
 昔、化粧品メーカーの美容部員になりたての友達が、レジから小走り
に戻ってきて、「お“た”“ま”せしましたー!」と言ったのは、社会
人用語に慣れない初々しさとして笑ってすませられる話であった。しか
し、私の場合は、自分の思い違いを正しいと信じ込んでいるのだから始
末が悪い。「どぶろく」が「どぶくろ」でないと知ったのは大学生の時
だったし、「投げやり」と「やり投げ」は、別物とわかっていても、い
まだに使う前に一瞬まごつく。探せばもっと出てきそうで、怖い。
 ところで、フランス語の80は「4、20」と発音し、4×20=
80の意味。81は「4,20.1」(4×20+1)。99は「4,
20,19」(4×20+19)。
 そういう知識を生かじりして、フランス語の論理的だが意外に回りく
どい点を鬼の首を取ったように突いてくる輩(やから)がいるが、職場
の男性も、そう聞きかじって、早速、私に議論を吹っかけてきた。
 でもねえ。私は「鬼の首を取ったよう」と言っても、その場面をシュ
ールに思い描いて遣っているわけではないのだよ。
 目が泳ぐ、藪から棒、味噌もくそもない……。
 みんなも、そうじゃないのかなあ。
 それに、数字に論点を絞っても、日本語は4,7,9の読み方がすで
に個人の好みにゆだねられているし、ものの数え方ともなると、1本、
2本、3本の「本」の読み方の支離滅裂、など、外国人泣かせは目白押
しなのだ。
 言語学的に説明はつくにしても、基本は「慣れ」。
「慣れ」なので、個人的な記憶違いや言い間違いも、その時代の多数派
になれたら、辞書を書き換えさせるだけの力を持つことになる。
 いつか「どんと」祭りが正しいなんて日が来ないかなあ。
 自分の無知を棚に上げて、夢見る今日の私でした。