簡単ケータイ

 米も醤油も何もかもスーパーマーケットで買うようになって久しいが、
スーパーのビニール袋では手が引きちぎれそうだと母が言い、同感だっ
たので、ショッピングカートをプレゼントした。中がカラの時は後ろ手
に引き、いっぱい詰めて重たくなったら前後の車輪の間隔をぐいっと広
げてベビーカー仕様にできるツーウェイタイプ。その際、押す力が前の
車輪に向かい斜め一直線に伝わる形状になるところが秀逸である。 
 しかし、もう六年ほどにもなるのだが、母はほとんど使わず、もっぱ
ら私専用になっている。母は、それを杖代わりにしないと外出できない
老人と思われそうで嫌なんだと。
 誰もそんな風には見ないかもよ。どっちにしろ、人の目なんて、どう
でもいいじゃない。
 ところが、今回、私自身がその手の見栄に囚われた。
 携帯電話の液晶画面がイカれ、母も一緒に買い換えることにし、母は
一も二もなく二つ折りタイプの簡単ケータイを選んだ。対する私は、そ
の機種の一般バージョン。でも、文字盤の凹凸デザインや文字の色は簡
単ケータイの方が好きかも……と迷う気持ちがあった。
 だが、高齢者向けと銘打ったものをわざわざ選ぶこともなかろう、と
心を決して、店へGO。すると、必要書類が足らず、翌日再来店するこ
とになり、その朝が来たら、両機種とも0円という別の店の新聞折り込
みチラシが目につき、単なる価格競争となれば仁義なき戦いであるから
して、あっさり契約を途中破棄。
 ただ、風邪で機種代0円の店に行くのが一週間遅れると、そのあいだ
にどちらの機種も売り切れて、「入荷待ち」の状況に変わっていた。
 そして、ようやく店から電話がかかってきたと思ったら、「簡単ケー
タイの入荷の目処が立たない。ほとんど同じ機能だから、二台とも一般
バージョンになさいませんか」。
 これには母が見栄をあっさり捨て去る態度で強硬に抵抗。
 ほかの店に電話しまくるが、その二機種は在庫なし、の返答ばかり。
 最後に、申請を取り下げた店に聞くと、簡単ケータイなら二台あると
言われ、即座に取り置き予約を頼み、これだったら初めからこの店で買
っておけばよかった、という結末となった。
 すべては0円という値段に目が眩んだ私が招いたドタバタ騒ぎ。けれ
ども、もっと大局的には、私自身が高齢者向けケータイを納得するため
の右往左往だったようにも感じている。
 しかし、今朝、春の新機種が発表されたという記事を見て、早まった
かも、とちょっぴりうじうじ。電話機能しか使わないなら関係ないはず
なんだけど。