「ずるい」って言うな

「ずるい」と言ったことのない子供は、いるだろうか。
 ほかのきょうだいが親から依怙贔屓されたと感じた途端、
「おねえちゃんだけ、ずるい」
 自分のケーキが小さいと思ったら、
「こっちの方が小さいやん、ずるい」
 公平を求めて自己主張する。
 ところが、自分自身がずるいと言われても仕方ない状況だと感じる場
合は、特に問題なし、という利己的態度に早変わり。
 大人になってもこの精神構造は変わらない。
 だが、よくよく考えてみると、本当に人を公平に扱いたいと思ったら、
その大前提が限りなく公平でなくてはなるまい。姉の方が歳が上だとい
うだけでも、大きいケーキを与えられて当然、と考えることはできる。
 そういうことに気がつくと、手放しに「ずるい」と責める勢いが削が
れるというか、責めて相手の足を引っ張って終わりになるのではない解
決法を考えつけそうな気もするのだが。
 Yahooニュースの見出しに、
「楽はずるい PTA改革を阻む壁」
 というのが載ったのは四月二十四日のこと。
 ある女性が、PTAの活動に文句があるなら役員になるべきだと考え
て執行部の役員になり、執行部で議論し合いPTAの改革案を提案した
のは皆に喜ばれると信じたからだが、役員経験者から、
「来年から楽になるなんてずるい」
 と声が上がったそうな。
 舅・姑との同居で苦労した人が、息子の嫁を家に迎えて自分が姑の立
場になると、若い嫁をいびって当然という態度に豹変した時代を彷彿と
されられる。
 私が味わった苦労を、次の人が味わわないなんて、ずるい・・・。
 わからないではないけれど、私と同じ苦労を娘にはさせたくないと思
い、ある意味、割を食う覚悟をした人達が出現したおかげで、「ずるい」
の呪縛を断ち切れる時代が到来したことを思うと、損を引き受けられる
奇特な人が現われるまでは、出口のない堂々巡りに終始することがわか
る。
 いや、それどころか。
 夫や交際相手を青酸化合物で殺害したとされる筧(かけひ)千佐子被
告が初公判で、特に夫は、過去の交際相手の女性には数千万円を渡した
のに私には一銭もくれず差別して、そんな夫に強い憎しみと殺意を持っ
た、と語ったそうだが、この場合も、大金をもらえた女性とそうでない
自分、という事実を冷静に分析すれば、諦められたかもしれないだろう
に、単に「ずるい」という反射的な感情に身を任せてしまった。
「ずるい」という言葉には、かくも強き毒があるのだ。
 だからこそ、この言葉とは距離を置けた方がよさそうに思う。