素敵な十代

 フランス人の友が来日し、神戸の三宮駅で降りたら、偶然、その改札
口が生田(いくた)神社に一番近い。
 なのに道に迷った。
 関西の人間なら絶対あり得ないことが、私に起こってしまったのだ。
 神戸は久方ぶりだとしても、ここまで土地勘がないとは、あまりにシ
ョック。
 フランス人が標識を指差し、私が素直にそれに添って道を右に向かっ
たのがいけなかったのだが、もちろん、彼女のせいにする気はない。
 それに、さすがにすぐになんかちがうと感じて、前から来る十代の女
の子の二人組に訊ねた。
「すみません。私達もよく知らないんです」
 あ、神戸っ子じゃないんだ。
 しかし、一人がさっとケータイを取り出し、
「ちょっと待ってください」。
 ケータイで地図検索を始め、私は興味津々で画面を覗き込ませてもら
った。
 私は、ケータイは、電話と電話番号で送受信できるメール機能に限っ
ているのだ。
 でも、こういう親切に出会って、ケータイのすごさを思い知らされた。
 これさえあれば、道に迷っても自己完結できると言うか、道に迷う状
況を事前に回避できるんだもの。
 人に道を聞かれても、その土地の人間であるかのように正確な情報を
教えてあげられる。
 人を喜ばせるチャンスが増えるということで、そんな素敵なことはな
い。
 それでも、私は、もっと強い必然に迫られるまで、人に訊ねるという
原始的方法にとどまるんだろうけど。
 さて、生田神社に着きました。
 鳥居の前で、ミニスカートの制服姿の高校生が写真を撮り合っている。
「二人で撮ってあげようか」
 声をかけると、明るい笑顔で、
「あ、じゃあ、お願いできますか」
 が、この二人。
 普通に立ってポーズをとるのではなく、鳥居の奥から現われる誰かに
観客の目を惹きつけようとするみたいな、チアガールようなポーズを取
る。今、どこかのおじさんが後ろを横切り始めたから「ちょっと待って
ね」とシャッターチャンスを待つあいだも、臆することなく、そのポー
ズのまま。
 もし私だったら恥ずかしくて止めてしまうだろうと思うと、そんなこ
となど考えもしない、あっけらかんとした態度が眩しい。
 屋台のお兄ちゃんに笑われても、全然平気な彼女達。
 それが若さというものなのか。
 写真を確認して、
「ばっちりです。ありがとうございます」
 と言う声も溌剌としていて、私は、声を交わした十代の子達のおかげ
で、鳥居をくぐる前に、もうたっぷりいい気分になっていた。